「ええい、仕方ない」
私は走り、職員室に応援を呼びにいった。夕食の準備でてんてこ舞いの時間だったけど、数人の職員が出てきてくれた。
こうして私たちは、不審なコスプレさんを寮の中に招き入れることになった。
空き部屋にコスプレさんを運び、濡れた着物を脱がせて予備のスエットを着せてベッドに横にすると、他の職員は「夕食の時間だから、あとはよろしく!」と逃げるように走り去ってしまった。
「下着がふんどしとは……本格派のコスプレさんだなあ……」
床に置かれた二本の棒を、椅子に座ったまま眺める。それは日本刀と脇差らしかった。
おでこに冷却シートを貼った時に気づいたが、皮膚とかつらのつなぎ目がない。ということは、この解けてしまった長い髪も地毛ということになる。
いったいなぜ、台風が近づいているこのときにコスプレをして外を歩いていたのか。謎は深まるばかり。
しばらく付き添っていたが、彼が起きる気配はない。
そろそろ私もお風呂に入って、休みたいな。
住み込みの寮母である私は、この寮で寝起きしている。とはいえ、知らないコスプレさんと同じ部屋で寝るわけにはいかない。夜勤の職員に挨拶をする必要もある。
鍵をかけておけば大丈夫だろう。私はコスプレさんを寝かせたまま、部屋を出ることにした。