ここに最も不似合いな寮生……山崎とはちあわせしたからだ。
「どうしたの。珍しいね」
「ちっ、うるせー」
彼の手には、透明の薄っぺらいケースがあった。中にノートや筆箱が入っているのが透けて見える。
「勉強やる気になったの?」
山崎は答えなかった。まあいい。それ以上聞くまい。
「ねえ、一冊おすすめの本があるんだけど」
私は彼を歴史コーナーに連行し、今見ていた本を彼に渡した。
「じゃあね」
山崎を置き去りに、出口に向かう。私はいない方がいいだろう。
ちらっと、一瞬だけ振り返る。閲覧用テーブルに座る、座高の高い男が見えた。
山崎は笑いをこらえるような仕草をしたり、目頭を押さえたりしていた。
新選組鬼副長、土方歳三。
彼は風変わりな寮母として、令和の人間の心にも、足跡をつけていったのであった。
ねえ、土方さん。あなたがいなくても、私頑張るからね。
だから、見守っていて。もし生まれ変わりなんてものがあるなら、是非遊びに来てね。
図書館の外に出ると、雨が降ってきた。私は持ってきた傘を開き、ゆっくりと歩き出した。
【完】