「えー! ウソだろ! 土方さんが辞めちゃったなんて!」

 真面目な寮生たちは、土方さんがいなくなったことを素直に嘆いた。いつの間にか土方さんは、彼らの兄のように慕われていたらしい。

「しょうがねえだろ。あいつにここは狭すぎたんだ」

 土方さんが消えた現場を見ていた山崎は、静かにそう言った。彼には一応事情を説明した。

「漫画みてえだな」と、短い感想を残し、それ以上は何も返ってこなかった。きっと、山崎なりにショックだったのだろう。

「きっと、元気にしてるよ。土方さんが残してくれたものを大事にして、がんばろう!」

「美晴、うっざ」

「そういうのいらねえ」

 湊と山崎に交互に言われ、私は口をつぐんだ。私は土方さんの代わりにはなれないらしい。

 土方さんがいなくなってからも、寮規の額縁は飾られ続けている。そして、彼がいないからといって規則を破る不届き者は、今のところいない。

 雨の中で現れ、雨の中に消えた新選組副長、土方歳三。彼は無事、幕末に帰れたのだろうか。

「まさか、切腹させられてないよね?」

 どうしても気になった私は、日曜に市立図書館に向かった。歴史コーナーで新選組の本を捜し、閲覧した。

「ぶふぉっ!」

 何も飲んでないのに、息を噴き出してしまった。それというのも、土方歳三が遺した遺品の写真が載っていたからだ。