「土方さん、早く入って……」

 声をかけて、ぎくりとした。土方さんの体が、ステンドグラスみたいに色を保ったまま透けてきている。

「おっさん、透けてんぞ!」

 山崎も濡れた顔で、見えたそのままのことを口にする。

 土方さんは急に魂を抜かれたようにぼんやりと刀を見ていた。

「土方さん!」

 見ていられず、近くに駆け寄る。土方さんの腕をつかもうとした私の手が、ひょいと空を切った。

「あ……」

 ダメだ。彼がこの世界から消えようとしている。なんとなく、そう察した。

「……なんだか、幕末に帰れそうな気がする」

「ウソ。こんなに突然?」

 土方さんに触れようとするけど、ただの映像になってしまったように、手が突き抜けてしまう。

「すまねえな。仕事、中途半端にしちまって。まだ洗い物が」

「そんなのいいです。いいから……」

 まだ、ここにいてほしい。こんなに急にお別れなんて。

「俺はここにいてはいけない人間だ」

「土方さん」

「今まで、世話になった。あとは頼んだ。山崎!」

 透明になって実体を失っていく土方さんを呆然と見ていた山崎が、体を震わせた。

「お前は本当はいい男だ! いつまでも腐ってんじゃねえぞ!」

 それが、最後の言葉となった。

 まるで雨に溶かされるようにして、土方さんは夜の闇と同化し……この地から、いなくなってしまった。