掃除のあと、土方さんは食堂へ、私は管理人室へと向かう。今日の仕事はこれでほぼおしまい。あとは夜中に一度巡回をするだけだ。

 廊下を歩いていると、山崎とその仲間ふたりがコソコソと何かを話しているのを見かけた。いつもはスルーしてしまうけど、今日はなにや様子が違う。

 山崎の周りよりひとつ飛び出した横顔に、汗がにじんでいた。なんだか深刻そうな顔をしている。

「どうかした?」

 声をかけると、三人はビクッと身を震わせ、こちらに振り向いた。

「別に……なんもねーよ」

 何かを隠すように、三人はそそくさと離れていく。三人の部屋は別々で、それぞれ他のルームメイトがいるから、廊下で話すしかなかったのだろう。

 他人に聞かれてはいけない話なのか。悪いことでも企んでいるのかな。

「ねえ、規則違反は逆さ吊りだからねー!」

 三人の背中に呼びかけると、振り返った彼らに『うるせえよ美晴!』と悪態を吐かれてしまった。

 そう、結局土方さんの規則を守っていれば、寮生自身がトラブルに巻き込まれる可能性も低くなるのだ。お金の貸し借りするな、とかね。

 なんだかなあ……。あの子たち、やらかしそうだな。あとで土方さんに報告を……。

 そう思っていたら、外から聞き慣れない物音がした。ブルブルと空気を震わせるような……巨大なハエがいっせいに集まったような……。