『おっさんって、なにか武道でもやってたのか?』

 食堂で食器を返しつつ、山崎が私に聞いてきたことがあった。本人に聞けばいいのにと思いつつ、言葉を選ぶ。

『うん、剣道をやってたみたいよ』

 これは嘘ではないだろう。あれから色々新選組や土方歳三について調べた。そうしたら、彼は上京する前、あの有名な新選組局長・近藤勇の道場に通っていたことが書いてあった。

『あいつ、堅気じゃないだろ。前科者か? 目つきが違う。きっと何人か殺してるぜ』

 職員にも寮生にも、訳ありな人が多いことをわかっていて言うのだろう。しかも当たらずとも遠からず。

『いやいや、現代でそんなことしたら法で裁かれるからね』

 土方さんがいた時代と、現代とはものの考え方自体が違うのだ。なのに土方さんは、よく順応していると思う。

 彼が持っていた刀は、まだ管理人室のロッカーにしまわれている。今後、取り出すことはないと信じたかった。