玄関を開けるのにも、いつもの倍の力が必要だった。外に出た途端、顔に水滴が叩きつけられる。

 暴風に吹き飛ばされそうになりながら、壁伝いに裏庭へ回った。

「誰かいるー!? もう玄関閉めちゃうよー!」

 大声で怒鳴るけど、雨音にかき消されて相手に聞こえていないのではないかと思う。斜めに降る雨は白い直線のように見え、視界を邪魔した。

「もう! 返事くらい、しなさーい!」

 手に持った懐中電灯で辺りを照らす。すると、裏庭の隅っこで誰かが倒れているのを発見した。

 まさか、雷に打たれた……!?

 背中を恐怖が駆け抜ける。寮生がケンカで怪我をしてくることはよくあるけど、倒れているのは初めて見た。

 長靴でしぶきを跳ね上げ、その人の元に駆け寄る。ぐったりとしているその姿に、私は目を疑った。

「はえ?」

 うつ伏せに倒れたその人は、漆黒の髪をポニーテールにしている。着ているのは、白い羽織。袖口と裾の部分が黒いギザギザ型に染められている。下は渋い色の袴、足袋、草履。そして腰からは、びよーんと天に向かって二本の黒い棒が伸びている。

「んと……ん? え?」

 ごしごしと目をこすってみるが、彼──背はそれほど長身というわけではないが、肩幅がしっかりしているので多分男だろう──の服装は変わらない。