湊が顔を上げた。大きな目を見開いている。
うん、令和の時代に十四で奉公なんて聞いたらビックリするよね。
「それから働きどおしで、学校なんてもんに行ったことはねえ」
「中学から……」
「二十歳過ぎて実家に帰ってからは、薬を売り歩いた」
「中卒で製薬会社営業に転職!?」
いやあの……違うよ、それ多分。湊に教えてあげようか、いちいち解説した方がいいのか悩む。
「まあまあうまくやっていたと思うぜ。でも本当にやりたいことは他にあった。偶然その道に通じる機関が人材を募集していたから、すぐ応募した」
「製薬会社営業から、悩まず他職種に転職するなんて」
「そこで、組織の二番目として働いていた」
「マジかー」
湊の目に、令和フィルターがかかっているのがわかる。違うのよ。農家の子が武士を目指して上京したってだけの話……って、それでもすごいか。
私には、やりたいことなんてなかった。なにを隠そう私も事情があって、ここに住み込みで働いている。
うまくいく保証などないのに、思い切った行動をする。周りに無鉄砲と言われるだろうけど、そういう人の勇気を羨ましくも思う。私にはないものだから。
きっと、湊も同じ気持ちなのだろう。土方さんを尊敬するようなまなざしで見ている。