就活生の素性を調査するような企業や公的機関には、彼は就職できない。それ以前に、大学に入れたとしても、寮がなければ通うのも難しい。
バイト代で生活費と学費をなんとかするとしても、一度体を壊したりすれば、途端に支払いが滞る。逆にバイトを入れすぎると学業が疎かになり、卒業できなくなることもある。
なので、学園でも就職をすすめる教員が多いと聞く。就職し、貯金し、余裕ができてから勉強すればいいとも言われるらしい。
「正直、俺だって何が正解かわからない。就職した方が、とりあえず安心できることはわかってる。だけど、厳しいってわかっていても、まだ勉強したいことがある」
心の中で、何度も葛藤してきたのだろう。不安を吐露した湊の肩を、土方さんが優しく叩いた。
「それはお前が決めることだ」
湊は落胆の表情を浮かべた。誰かに背中を押してもらうことを期待していたのに、それを裏切られたんだろう。
「お前の道は、お前しか決められない。俺が言えることといえば……人生、いつ何があるかわからねえってことだ」
だから転ばぬ先の杖として、就職をすすめるのか。湊が余計に首を曲げて下を見る。
「俺ぁ農家に生まれて、六歳で母を亡くし、十四で奉公に出された」
「えっ!」