ほら、今の子はこうなんですよ。火事とケンカが江戸の華だった時代とは違うんですよ。
湊にも熱くなって説教を始めるかと思えば、土方さんはさっきまでの鬼の表情からは想像できないくらい軽く言った。
「そうか。余計なことをしちまったみたいだな」
土方さんはまるで幼い弟にするように、湊の頭をくしゃりと撫でた。その瞬間、湊の表情まで歪んだように見えた気がした。
「それにっ……」
「ん?」
手をどかした土方さんに噛みつくように、湊は言った。
「あいつが言ってたこと、本当だから言い返せなかった」
土方さんは黙って次の言葉を待つ。湊はうつむいた。その手が震えていた。
「俺がいくら勉強したって、明るい未来はないんだ」
「ほう」
「奨学金を借りて進学しても、いい企業に就職できるとは限らない。卒業できるのも、よっぽどすごいやつだけだって、わかってる」
私はカウンターの中で、湊の生い立ちについて思いだしていた。彼の父親は、湊が中学生のときに警察に逮捕されるような事件を起こしており、今も刑務所の中にいる。母親は父親と離婚し、湊を置いて実家に戻った。
父のせいで、湊を引き取って面倒を見てくれる親戚はいなかった。そこを及川氏に拾われたのである。