「おら、湊に謝れクソガキ!」

「誰が……ぐえっ。あーあーあー俺が悪かったよ! これでいいだろっ」

 全然心はこもっていなさそうだけど、一応謝った山崎。土方さんはパッと手を離し、彼を解放してやった。

「そういえば、お前ら武士じゃなかったな。よし、切腹は免除してやる。その代わり、今度規則を破ったら、俺がお仕置きをしてやるから」

 肩を押さえ呻く山崎の前に回り、彼の顎をクイと上げた土方さんが妖艶に微笑む。

「いいか。天井から吊るして、足の裏に五寸釘を刺して、火をつけた蝋燭を立ててやる。そのあと棒で滅多打ち、水攻めだ」

「ひ、ひいい……」

 他のひとが言ったら笑っちゃうところだけど、土方さんなら本気でやりそうな気がして怖い。なにせ彼は怖い物なしの新選組副長だ。その顔は役者のように端正すぎて、逆に恐ろしい。

「行ってよし」

 土方さんにお尻を叩かれた山崎は弾かれたように立ち上がった。仲間を置き去りに、脱兎のごとく部屋の方へ走って逃げる。

「おい! メシの時間には遅れず来いよ!」

 ラ行巻き舌が、余計に圧を感じさせる。しかし言っている内容は、意外に親切だった。

 土方さんはくるりと振り向き、湊の方へ歩いた。

「どうして言い返さない?」

 湊はぐちゃぐちゃにされたノートを閉じ、ぼそりと言った。

「言い返してケンカになったら、面倒くさいから」