「一、勝手に訴訟取り扱うべからず。寮生どうしのもめごとが解決できねえときは、勝手に外部の人間を巻き込むんじゃねえ。まず俺が裁く」

 すらすらと話をしている彼の口調から、この隊規とやらが今作られたばかりではないことは明らか。まさか、新選組の掟をそのままこの寮に適用させようっていうんじゃあないでしょうね?

「最後に。これが一番大事だ。一、私の闘争を許さず」

「お、おい行こうぜ。このおっさん、やべえよ」

 今ばかりは私も山崎に同感だ。傍から見たら、土方さんはいきなりわけのわからないことを言いだした、やべえおっさんで間違いなかった。

「待て。意味を教えてやる」

 土方さんが逃げようとした山崎の腕を掴んだ。山崎は咄嗟に振りほどこうとするが、土方さんはびくともしない。

「いいか。ガキにもわかりやすく言ってやる。寮生同士でケンカすんじゃねえってことだ! ケンカを売ったやつは切腹!」

 ぐりんと山崎の体が反転したかと思うと、びたんと床に沈んだ。なにをどうやったのか、土方さんが山崎の腕を捻りあげ、その背中に乗っていた。

「いてててててて! やめろ、この! 訴えるぞ!」

「できるもんならやってみな!」

 失うものをなくした土方さんには、怖い物など何もないようだ。そして山崎は自分より小さな体格の土方さんに、なんの抵抗もできなかった。