「ここにいられるのは、十五から十八の男子だ。ガキは出ていきな」
「なんだと? 俺が十五以下に見えるってのか、ああ!?」
カウンター越しにすごまれて、私は固まった。立場上毅然とした態度をとらなければいけないので、恐怖を感じても表情に出さないように気をつける。
「俺がいた時代じゃな、こんなバカなことするのはガキだけと決まっていたんだがな」
土方さんはエプロンを着けたまま、カウンターの外に出た。本物の子供が見たら震えあがるくらい、ふたりは凶暴な顔で睨みあう。
「俺が今から、新しい隊規を決めてやる」
「ああ? このおっさん、頭おかしいのか?」
山崎が掴みかかろうとした瞬間、土方さんはその場から姿を消した。と思ったら、いつの間にか山崎の後ろに回り込んでいた。
「まず、一、寮を脱するを許さず」
脱走するなってことよね。それは元々の規則にもある。
「一、勝手に金策いたすべからず」
「何言ってんだよ」
山崎が振り向き、腕を振り上げる。が、土方さんはまたも身軽に彼の背中に回り込む。
「寮生同士での金の貸し借りを禁ずる。同意の上でも、後のいざこざが起きるのを防ぐためだ」
山崎の顔がこわばった。身に覚えがあるのかもしれない。たとえば、誰かから無理にお金を巻き上げたとか。