湊が立ち上がって手を伸ばすが、山崎のあげた手には届かない。
「ほらよ」
仲間が港のペンケースを勝手に探り、赤ボールペンを取り出して山崎に渡した。
「あー、んーと、何書いてあるかわからねえからバーツ!」
山崎はノートをテーブルに叩き付け、赤ボールペンをノートの上で乱暴に動かした。ぐりぐりという音が聞こえてきそうだ。
「ちょっと!」
なんていう悪ガキ。私たちが見ていても平気であんなことをするなんて。
勢いに任せて厨房を出て行こうとする私の腕を、ぐいと誰かが引いた。もちろんここには土方さんしかいない。
「勉強なんかしても、俺たちに未来なんてねえんだよ!」
山崎はペンを放り投げ、湊に怒声を投げかける。湊はじっと赤い線でぐちゃぐちゃにされたノートを見ていた。
ケンカにならないかとハラハラしていたが、山崎はさっさとその場を去っていく。
湊は頭のいい子だ。抵抗しなければ、嫌がらせが最速で終わることがわかっているから、じっとしているんだろう。もちろん、相手と場合によるだろうけど。
「おい」
隣から低い声が聞こえ、そちらを見る。土方さんが、山崎をにらんでいた。息を飲むほど狂暴な目つきで。
「な、なんだよおっさん」