「一句浮かんだぞ。粉々の 肉をなぜまた まとめるか」
「えっ。今のもしや、俳句ですか。季語入ってませんよ」
五七五のリズムしか合ってない。もしかして、笑わそうとしたのか?
「俺としたことが。肉をこね まとめて焼くもの 秋の風 これでどうだ」
「……ああ、そこはかとなく秋を感じます」
どうやら、至極真面目に作った俳句のようだ。ちょっと何を言いたいのかわからないけど、ツッコむのを躊躇うくらい、彼の表情は真剣さで満ち溢れている。
幕末って俳句を詠むのが流行ってたのかな。私も俳句をよく知っているわけじゃないけど、土方さんがあんまり上等な詠み手じゃないってことは、なんとなくわかった。
「ただいま、土方さん。今日のメニューは何?」
食堂のカウンターの向こうから、学校から帰ってきた寮生が顔を覗かせる。茶髪で大きな目をした、人懐っこい子だ。名前は湊。
「おう、今日は……なんだ? 粉々にした肉を、なぜかまた混ぜくりかえして小判型にまとめて焼く珍妙なやつだ」
「出たよ記憶喪失。それハンバーグって言うの。おもしろいなあ、土方さんは」
クスクスと笑いながら離れていった湊は、食堂の隅でノートと教科書を広げる。彼はいつもここで課題をやるのだ。
部屋に帰れば、ルームメイトがいる。彼のルームメイトは音楽好きで、大きな音で音楽をかけて歌っているらしく、集中できない彼はここで課題をやるのが日課になっている。