「まあ、平たく言えば家庭生活がうまくいかなかった子が、家を追い出されるようにして来る……それがうちの寮なんです」
及川氏が寮を作ったのは、そういう子たちを受け入れるためだ。中学でどんな問題を起こした子であろうと、彼女は受け入れる。
もちろん問題児だけではない。毒親に捨てられたも同然の、真面目な子もいる。
「身分の差もねえ、誰でも教育が受けられる時代でも、食い扶持を減らすために捨てられる子供がいるのか。切ねえな」
「食い扶持……ってのはちょっとアレですけど」
貧困でしかたなく、という子もいるにはいるが、少数派だ。ほとんどが普通かそれ以上の家庭の子だ。
私は帰ってから、土方さんに寮母の仕事を一通り教えた。彼はおとなしく聞いていた。
新選組副長までやった人が寮母の仕事などやりたがるわけがない。サボったりしたら追い出してやろう。
そう思っていたのに、意外に土方さんは早く環境に順応していった。職員も真面目に働く彼を見て、最初のコスプレの件は水に流してくれたようだ。
「土方さん、こんな仕事嫌じゃありません?」
トイレ掃除、風呂掃除。職員も嫌がる仕事も土方さんは文句を言わずにやった。
「俺ぁここで一番下っ端だからな。ここの規則を守るまでだ」
「はあ……偉いなあ……」