「ここには介錯できるひとはいません」

「むう、そうか。では迷惑をかけるがひとりでやるしかあるまい」

 土方さんは床に正座し、スエットをめくってお腹を出した。すると引き締まった腹筋から、ぐうと細い音が鳴った。

「お腹空いたんですね」

「空耳だろう」

 土方さんはすまし顔をするが、もう一度腹の虫の音が追いかけてきた。

「……あのね土方さん、今の時代に新選組はないんです。だから、隊規を守る必要もない。あなたに今必要なのは、栄養をとって休むことです」

 私は部屋のドアの前に立った。

「どこへ行く」

「食事を持ってきます」

 部屋の中にロープなど自殺の手助けになるようなものがないか確認し、私は廊下に出た。食堂へ行き、すぐに戻る。

「はい、どうぞ。朝ごはんです」

 土方さんの前にローテーブルを置く。その上に、食堂から持ってきたお盆を乗せた。

 梅おにぎりふたつに、厚焼き玉子。野菜たっぷりのお味噌汁。以上。食べ盛りの寮生には小鉢やヨーグルトがつくが、そこは省略した。

「これ……」

「どうぞ。食べてください。お腹が空いていると、考えがどうしても後ろ向きになってしまいます」

 土方さんは迷っていた。けど、結局空腹には勝てなかったのか、のろのろと箸を持った。

 味噌汁を一口、慎重に口の中に流し込む。ごくりと喉が鳴った。