「うむ」
膝を抱えたまま、こくりとうなずく土方さん。元治元年にはまだ、江戸幕府があったのだろう。
「昨日のことを覚えていますか?」
「昨日……俺は不逞浪士を追っていて……。突然激しい雨が降ってきて、足を滑らせ」
「滑らせ?」
「川に落ちた」
「だ」
ダッサ。言いそうになったけど、すんでのところで堪えた。
「ん~……いわゆるタイムスリップってやつかな?」
「ああ?」
「あなたはどうやら、未来の日本に来てしまったようです」
衝撃を受けたのか、土方さんは大きな目を見開き、のけぞった。数秒固まったけど、やがてのっそり動き出した。
「信じられねえ……」
「ですよねえ。私もです。もし嘘を吐いているなら、今言った方がいいですよ」
「嘘なんかつくか。早く京に戻らねえと、大変なことになる。俺が着ていた着物をくれ」
着物はびちゃびちゃだったので、室内に吊るして干してある。まだ乾いていない。その旨を伝えると、土方さんはベッドから降りた。
「仕方ねえ。みょうちくりんだが、この衣装を借りていくぞ。刀を出せ」
「どこに行くんですか」
「京に帰るんだよ」
「どうやって? 今の日本では、刀を持って歩くことが禁止されているんです。すぐに警察に捕まって、拘留されますよ!」