反省を胸に、初子さんと落ち合う約束をしている神社に向かうため、袴を少したくし上げ走り出すと……。


「キャッ」


 目前をすごい勢いで通りかかった人力車の車輪が、昨日の雨のせいでできていた水たまりの水を跳ね上げ、私の――正確には初子さんの、矢絣の着物と顔にかかった。


「止めろ」


 すると、それに気づいた人力車の客が車夫に声をかける。

 てっきりそのまま走り去るとばかり思った私は、拍子抜けしていた。


「すまなかったね。大丈夫かい?」


 人力車から降りてきてハンカチーフを差し出したのは、上質な三つ揃えを着込んだ紳士だった。

 二重で切れ長の存在感のある瞳。そして長めの前髪の間からチラチラと覗く凛々しい眉。スッと筋の通った鼻に、薄い唇。

 西洋の匂いが漂うその人は、私がそのハンカチーフを受け取るのをためらっていると気づき、サッと顔にかかっていた水を拭き始める。