「なかなかうまいじゃないか。だけど、きれいな着物を着たお嬢さんが、籠編みに興味を持つなんて珍しいねぇ」


 しまった。初子さんの代わりをしていることなんて、すっかり頭から飛んでいた。


「あはは。おじさん、ありがとう!」


 私は曖昧に笑ってごまかし、店を飛び出した。


「あっ、いけない……」


 遠くから蒸気機関車が近づいてくる音がする。

 家の中で家事に追い立てられているときとは違い、好きなことをしていられる時間があまりに楽しくて、初子さんとの約束の時刻が迫っているのに気づかなかった。

 今日は、あの蒸気機関車が通る頃には合流しなければならなかったのに。

 時計を持たない私は、どこかの店先にある時計を盗み見するか、太陽の位置で大体の時間を把握していたが、すっかり忘れてはしゃいでいた。

 ああ、この夢中になると他のことを忘れる性格をなんとかしなくては。