宮内省に勤めている父は酒好きで、しばしば仕事帰りに飲んでくる。

 しかも裕福だった頃の生活を忘れられず、その場にいる人たちの分まで支払うという大盤振る舞いが大好きで、散財してしまうありさま。

 だからか、家計を切り盛りしている母の機嫌が常に悪い。


「あや。洗濯をやり直しなさいと言ったでしょ!」

「すみません。今すぐ」


 そうは言っても、障子が破れたから貼り直せと命じられて、それをようやく終えたところなのに。


 反論したいのはやまやまだったが、ぐっとこらえて返事をする。
 言い争っても叩かれるだけだから。


「まったく。なんの役にも立ちゃしない」


 ふんと鼻息荒く私を叱った母は、そのまま奥に引っ込んでいった。


「まだだめか……」


 頑張っているつもりなのに、母は女中としても認めてはくれない。