母には冷たくあしらわれてきたけれど、私はこの家にいられて幸せよ。
 初子さんのように優しい姉がいるんだから。

 私は自分にそう言い聞かせた。


「初子さんありがとう。お団子はいただくわね。でも私、明日からまつと一緒に働きます」


 母に嫌われているとわかったからには、初子さんや孝義と同じように一橋家の子の顔はしていられない。


「なに言ってるの? あや、お母さまには私がお話しして、今まで通りにしていただくわ。だから……」


 初子さんは私の肩をつかみ、必死に訴えてくる。

 彼女の申し出がうれしくてたまらない。けれど、このまま違和感を抱えながら生きていくのもつらい。

 母に手を上げられるというのは、『あなたに注ぐ愛などない』と言われているかのようで、ことのほか堪(こた)えるのだ。