父は子爵という爵位を持ち、宮内省に勤めている官僚だ。
 しかしその父の浪費癖がたたり、祖父の代は女中が十人もいたのに、今やまつを含めて三人だけ。

 それでも、華族であるがゆえ、それなりの品格を求められている。


「だって初子さんが、お団子をくれないんだもの」
「あやだって!」


 もう少しで取っ組み合いの喧嘩になりそうになったとき、「あや!」という母の大きな声がした。

 すると、まつはスッと部屋の隅に寄り、小さく頭を下げた。


「はい、なんでしょう?」


 私は、叱られるなら初子さんも同罪だと思いつつ、母を見上げる。


「この家のものは初子と孝義のものです。あなたはおこぼれでありがたいと思いなさい」


 母の言葉が納得できない私は、口を開く。


「どうしてでしょう? 三人で分け合えばよろしいと思います」


 正論を述べたつもりだったのに、母の眉がキリリと上がった。