彼女はどこに行くのか言伝してからの外出しか認められていないので、私を伴って買い物に行くということにしてある。

 一橋家の娘ではあるけれど、わけあって初子さんとは違い女中のようなことをしている私が、周防さんと会う間、初子さんとの入れ替わりを提案したのだ。

 華やかな着物では目立ちすぎるため、初子さんは私の粗末な着物を纏い、そして私は初子さんの袴をはいて入れ替わったあと、こっそり家を抜け出すことにしている。

 女学校に行くことが叶わなかった私にとっては、初子さんの逢引を隠すためとはいえ、別世界に浸れる至福の時間だった。


 袴姿でちょっとすました顔をして、街中をうろうろするのが楽しくてたまらない。

 街の中心を横断するように悠然と流れる大きな川にかかる橋にはアーク灯。

 東西に延びる大通りにはモダンな造りの西洋建築。
 あれは銀行だ。せわしなく人が出入りしている。