優しく微笑む彼は、時計を私に握らせる。


「えっ、そんな。いただけません!」

「でも、また遅れるぞ? それにこれはさっきのお詫びだよ。いくつでも持っているから気にしないで」


 いくつでもって……やはり相当お金持ちなんだわ。


「これはときどきねじを巻いてやらないといけない。そうでないと使いものにならなくなるから気をつけて」


 紳士は私に無理やり時計を押し付けた。


「ですが……」


 これはいったいいくらするのだろう。

 懐中時計なんて身につけたこともないので、見当がつかない。


「きみはさっきから俺の申し出を拒否してばかりで、少々失礼だ。受け取りなさい」
「は、はい」


 ビシッと叱られた私は、小さくなって時計をギュッと握った。


 怒っているのかと思いきや、彼はニコッと笑みを浮かべてなぜか熱い視線を送ってくる。


「ほら、もう着いたぞ」