「そんな。馬鹿にされたら腹が立つのは当たり前です。未熟なのは、馬鹿にした相手ですわ!」


 鼻息荒く返してから、またやってしまったと口を押さえた。


「いいね。きみと話していると心がスッとするよ。ありがとう」

「い、いえ。とんだお転婆(てんば)ですみません……」


 声を小さくして言うと、彼は白い歯を見せた。


「それはそうと、急いでいるということは、約束でもしていたの?」
「はい。十七時にと」


 彼は背広の内ポケットから銀色に輝く懐中時計を取り出して、時間を確認している。


「あと二分しかないじゃないか。これはどんなに急いでも遅刻だな」

「二分! 送っていただいてよかったです。時間がわからなくて」


 こうして送ってもらわなければ、神社まで全速力で走っても私の足では十五分くらいかかるので助かった。


「なるほど。それじゃあこれをあげよう」