なんて幸せな時間なんだろう。でも、家に帰ればそれも終わってしまう。


「どうかしたの?」
「い、いえっ」


 突然黙り込んだからか、彼が顔を覗き込んでくる。

 こんなに近い距離で視線を感じると、胸が苦しくなるからやめてほしい。


「きみの笑顔は本当に美しいよ。仕事で少々いらだっていたんだけど、もやが晴れたようだ」

「なにかあったんですか? あっ、いえ……なんでもありません。すみません」


 とっさに首を突っ込みそうになり、慌てて発言を取り下げた。

 誰かが困っていると気になる性分はどうにもならないけれど、出会ったばかりの人の話にかかわるなんて図々しいにもほどがある。


「はははっ。おもしろい人だ。少し馬鹿にされただけだよ。もう慣れてはいるけど、腹が立つのは抑えられなくてね。まだまだ未熟者だ」