あまり遅くなって、初子さんと入れ替わっていることがばれてはまずいのに。


「きみは、空を飛び回る鳥のようだね。一瞬でも気を抜いたら、あっという間に空の向こうに飛んでいってしまいそうだ」


 彼はそう口にしながら、緩やかに口角を上げる。

 この人、優しそうだわ。

 ふとそんなことを考えて、頬を真っ赤に染める。

 どうしてこんなに胸が苦しいのかしら……。

 その原因がわからないまま抵抗する力を緩めると、ようやく腕を解放された。


「わかったよ。それではこれは引っ込める。だけど送っていくから乗って」
「いっ、いえ……」
「それじゃあこれを受け取るか、どっちがいい?」


 先ほどとは違う意地悪な笑みを浮かべる彼は、選択を迫る。


「……送って、ください」


 どうしても紙幣を受け取れないと思った私は、ついに観念して返事をした。


「どうぞ」