しかも、それほどのお金持ちが『地に足がついた生き方』って……。

 でも、その考え方は素敵だと思う。


「それより、急いでいるようだったけど、大丈夫?」
「あっ、忘れてました。失礼します」


 初子さんと待ち合わせている神社に行かなければ。

 頭を下げざまに、紙幣を紳士に押し付けて去ろうとすると、腕をつかまれて止められた。
 すると、握られた部分が途端に熱を帯びてきて、全身が火照ってくる。

 ふたつ下の弟の孝義とは手をつないだことはあるものの、男性とこんな接触をしたのが初めてで、激しく動揺していた。


「きみの考え方はすこぶる立派だが、これは俺が汚したんだ。どうしても受け取ってくれないのかい?」

「せ、洗濯は得意ですから、気にしないでください。それより行かないと……」


 しどろもどろになりながら答えたけれど、手を離してくれない。