そもそも、買い物に行くのは家のものをそろえるときだけ。
 好きなものを買ってもいいと言われた経験がなく、なにを買ったらいいのか見当もつかない。

 すると紳士のほうが目を丸くして、しばらくしたのち、クククと笑みを漏らし始めた。


「女学校に行っているのだから、それなりの家柄のお嬢さんだと思ったんだけど違うのかな?」
「あっ!」


 しまった。今は初子さんのふりをしておかないといけなかったのに。

 私は焦り、目を右往左往させる。


「お金があるのは父と母ですから。私は自分で稼いでいるわけではありませんので、与えられるものに感謝して、つつましさを忘れるべきではないと思っておりまして」

「なんとしっかりしたお嬢さんなんだ」

「い、いえっ……」


 とっさの発言に食いつかれて、嫌な汗が出る。

 けれども、口にしたのは本当の気持ち。