『悪い、こんな時間に。夕方に一回かけたんだけど出なかったから』
「なんで……かけてきたの?」
十四歳の冬に遠くへ引っ越してから、一度も連絡はなかった。
当たり前に近況報告のやり取りができるだろうと考えていた私の気持ちは簡単に押し潰された。
きっと新しい土地で、新しい仲間たちと楽しくやっているんだろうと。私のことなんてもうとっくに忘れてしまっていると思っていた。
『なんかお前の声が聞きたくなってさ』
……こういうところ、本当に変わらない。自分の発言がどれだけの力を持っているかも知らないで、ストレートに物を言ってくる。
『学校はどう?』
「……べつに普通。そっちは?」
『明るいやつらばっかりだから毎日うるさいよ。響は共学?』
「うん」
『同中の誰かと連絡取ったりしてる?』
「してない。そっちは?」
『俺も最近は全然。最初の頃は取り合ってる人もいたけど、やっぱり高校に入ると色々忙しくなるもんな』
……じゃあ、なんで最初の頃に私には連絡してくれなかったんだろう、なんて、そんな考えが浮かんでしまった自分に呆れた。
あの頃、私が一番親しくしていたのは旭だった。私には……旭しかいなかった。
彼が引っ越してしまった時、自分を照らしてくれるものがなにもなくなったような気持ちだった。不安というより寂しくて。寂しいというより苦しかった。
『なんで、連絡してくれなかったの?』
……なにそれ。それを旭が言うの?
「……あのあとすぐにスマホが壊れて、データが全部消えたから」
だから、リセットされた気がしていた。
恋しく思うくらいならスマホと一緒に心もそうしてしまおうと思った。
それでいいんだと言い聞かせながらも、どこかで旭からの連絡を期待してる自分もいた。
自分で連絡できないことを理由にして……ずっとずっと待っていた。
なのに、なんで今さら。この二年間なんにもなかったのに、なんで……。
「あのさ、もう寝るから」
彼のことを身勝手だと思う自分が一番身勝手だ。
『そうだよな。こんな時間に本当にごめんな。でも少しでも喋れて嬉しかったよ』
ほら、またこっちの気持ちも知らないでそういうことを言う。だんだんと腹がたってきて電話を切ろうとした寸前で、声が飛んできた。
『また連絡してもいい?』
いいもダメも言えなかった。その代わりに、聞こえなかったふりをして一方的に電話を切ってしまった。