やっと部屋に向かって横になれた時には十時を過ぎていた。なんだかいつも同じ毎日を繰り返してる気がする。
だんだんとまぶたが重くなってきて意識が途切れそうになる頃、枕元にあるスマホが鳴っていた。
電話帳に登録していない番号が暗がりの中で表示されている。これは夕方にもかけてきた人だ。
誰なんだろうと不審に思いながらも、二回かけてくるということは間違い電話ではなさそうだと思い、着信を取った。
『もしもし、俺だけど、元気?』
私が声を発する前に聞こえてきた声。一気に眠気が吹っ飛んで、慌てて横になっていた体を起こした。
なんで? どうして? まさか?
そんなはずはないと思っているのに、耳が彼の声を覚えている。
『響?』
二年振りに名前を呼ばれて、胸が無条件に苦しくなった。とてもじゃないけど声が出ない。なんて言っていいのかわからない。喉がきゅっと絞まるのと同時に、気づけばベッドの上で正座になっていた。
彼の名前は、三浦旭。こんなことを言えば大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、私の人生においてもっとも影響を与えた人物であり、一番多感だった十四歳を一緒に過ごした人だ。
私と同じように十七歳になっている彼の声はほんの少しだけ大人っぽくなっていた。
『あれ、もしかして、響じゃない?』
私がなにも言わないから不安に思ったのだろう。スマホを耳から離しながら番号を確認してる様子が目に浮かぶ。
「……響だよ」
どんなテンションで話せばいいのかわからなくて、なんだか不機嫌な言い方をしてしまった。
『番号変わってなくてよかった。元気?』
「……うん、そっちは?」
『俺も元気』
本当に私は今、旭と喋っているの?
全然実感がないというのに、不思議と久しぶりという感覚はなかった。
だって私は彼のことを忘れたことなんて一度もない。
頭の中で何度旭との思い出を振り返っただろうか。
もう少しうまく喋れてもいいはずなのに緊張が先立ってしまい、声の震えを隠すことで精いっぱいだった。