「やだ、今年も長い手紙になっちゃった」

 手紙の長さに我ながら呆れた。書き始めると止まらなくなってしまう。

「今年は10年目だもんね。だからかな、特別な気がするのよね」

 手紙を封筒に入れ、チョコレートと共に石像の彼の前に置く。
 今年は手作りのガトーショコラ。うまく焼けたと思う。 

 石像の彼を見つめる。石になっても変わらず、美しい姿を保っている。
 そっと彼に寄り添った。ひんやりした石の冷たさが伝わってくる。

 つま先立ちになると、彼の頬を包みそっとキスをした。

「愛してるわ、あなた。美しき魔王レイ……」

 愛の言葉を(ささや)いた、その瞬間。私の腰に、誰かの温かい手が添えられた。

 え? と思った瞬間、私は体を少しだけ上向きにされ、驚く間もなく唇を塞がれた。それはレイが私を愛する時にする仕草。

「やっと目覚めることができたよ、ルリ」

「レイ……!? あなたなの? うそ、どうして」

「ルリシオンは私の体を石に変えると同時に癒やし、そして姿を変えようとしてくれたんだよ。ニホンジンとしてね。ニホンゴも使えてるだろ? でも欠片(かけら)だったから時間がかかった」

「だからなの? 10年間も石像のままだったのは?」

「そうだよ。ルリシオンはね、元々私の所有物であり宝だった。奴らに奪われたんだ。力を使い果たしてなくなってしまったけれど、最後に私の願いを叶えてくれた」

 涙が溢れて止まらなかった。もう二度と会えないと思った愛しい人。

「泣かないで、ルリ。ルリはオレに毎年贈り物をくれたろう? あれも復活の力になっていたんだ。ルリは10年もオレを守り続けれくれた。
 だから今度はオレが君を守る。これからはニホンジンとして君と共に生きていく。
 ルリが10際歳を重ねたぶん、オレもいい具合にオジサンになったろ? ルリシオンが気を利かせてくれた」

 ああ、私の知ってるレイだ。少しだけ意地悪で、でもとびきり優しい。

 言いたいことは沢山あったはずなのに。

 たったひとことしかいえなかった。

「愛してる……レイ」

「ルリ、永遠に君を愛し、守り抜くことをここに誓います」





           了