一気に質問したからか、咲乃は驚いた顔をしたが、すぐに小さな笑い声をこぼした。
「たしかに怖そうな人たちを一言で追い返してしまうくらいの人だけど、玲ちゃんが思っているようなことは起きないと思うよ」
そう言われても、心配せずにはいられない。
咲乃が怪我でもすれば、きっと私は生きていけないだろう。
それくらい、私の中で咲乃の存在は大きいのだ。
これをそのまま言ってもよかったのだが、鬱陶しいと思われても嫌だったため、安心したと思わせるような、適当な相槌を打ってしまった。
「それから、歳は玲ちゃんたちと一緒だって言ってた。中学三年生」
となると、私は知っているかもしれない。
「名前は?」
「新城さん。新城隼人さんだよ」
知らない名だった。
そして、聞いて思い出した。さほど他人に興味がない私が、名前を聞いたところでわかるわけがなかった。
「もうどうしたの、玲ちゃん。質問ばっかり」
そうは言うが、咲乃は笑っている。不快には思っていないのだろう。
「そいつが本当に咲乃に相応しいかどうか、判断してやらなければならないからな」
結構本気で言ったが、咲乃は冗談と思ったらしい。
何度、本気だと言ってみても、軽く流されてしまう。
「玲ちゃん、そのくらいにしておきなよ。玲ちゃんは咲乃ちゃんの姉でも親でもないんだから」
佑真に止められてしまったが、言葉のチョイスが嫌だ。その言い方だと、私と咲乃が無関係みたいに思えてしまう。
「いいんです、先輩。こうなることは、なんとなく予想してました」
さすが、咲乃だ。私のことをよくわかっている。
褒めてやりたくなって、咲乃の頭を撫でる。
しかし佑真は不服そうだ。
咲乃もそれに気付き、助けを求めるように私を見てきた。
「佑真、お前は一体なにが気に入らないのだ。そんなあからさまに嫌そうな顔をされては、こっちもつまらなくなってしまうではないか」
「……玲ちゃんには、一生わからないよ」
佑真はそう言い捨てて、部屋を出ていった。
なんだったのだ。私には一生わからないとは、どういうことだ。
変なセリフを残していったから、気になってしまう。
「先輩、大丈夫かな」
「咲乃が心配することではない」
冷たいと思われてしまうだろうが、もともと私は佑真がここに来てほしいと思っていなかった。
佑真が来たいと駄々をこね、勝手に拗ねただけの話だ。気にしてやるまでもない。
「さあ、勉強しよう」
咲乃の気持ちは簡単に切り替わらなかったが、ある瞬間からスイッチが入ったのか、目の前の課題に集中するようになっていた。
◇
咲乃に彼氏ができて、約一ヶ月が経った。
登校は相変わらず一緒だが、帰りは別々に帰るようになった。
咲乃に勉強に集中してほしいから、一緒に帰らないと言われてしまったのだ。
しかしながら、私が勉強している間に、咲乃と新城隼人が仲良くしているのかと思うと新城隼人に腹が立って、集中などできたものではなかった。
ちなみに、志望校は偏差値が低い星月高校に変えた。
理由としては単純なもので、また咲乃と同じ校舎で過ごしたかっただけだ。
聞けば、新城隼人は不良のたまり場と有名な星月高校を受験するらしい。
咲乃もそれを追うと言うから、私もそこを選んだというわけだ。
正直、勉強の必要はないのだが、その報告をまだ咲乃にしていない。
咲乃はまだ私が進学校を受験すると思っているから、勉強に集中してほしいと言ってくるのだと思う。
これを知れば、もっと長く一緒にいられるかもしれない。
昼休み、咲乃の元に向かう私の足取りは軽かった。
ついでに咲乃の試験結果も聞こう。そうすれば、話す時間が伸ばせる。
しかしながら、こうして話題がなければ会いに行けないとは、なんとも寂しい関係になったものだ。
咲乃が足りていないから、私の日常がつまらなくなっていく。
そんなことを思いながら階段を降り、咲乃の教室に向かおうとすると、廊下で咲乃と佑真が話しているのを見つけた。
二人の表情は真剣で、邪魔ができる雰囲気ではなかった。
だが、邪魔をしたいという気持ちが強くなってしまった。
歩く速さを上げたのはいいが、近付く途中に佑真に気付かれてしまった。
気付かれては意味がないが、それでも佑真を突き飛ばした。
佑真は簡単にバランスを崩す。
「なにするの、玲ちゃん」
佑真は不満をぶつけてくる。
「私は咲乃に会うのを我慢しているというのに、お前が咲乃と話しているのがムカついた」
「理不尽」
そうだろうか。
まあ佑真のことなど、今はいいのだ。
「咲乃。星月高校に通うからな」
単刀直入に伝えると、咲乃は目を見開いた。それが妙に面白かった。
「そんなに驚くか?」
「だって、玲ちゃん頭いいのに、どうして」
どうしてそこを選んだのか。
咲乃は聞こうとして、やめた。きっと、理由がわかったのだろう。
呆れたように笑う。
私も、自分自身に呆れてしまうくらいだから、この反応は当然だろう。
「相変わらずだね、玲ちゃんは」
咲乃がそうして笑ってくれるのであれば、私はいつまでも、このままでいようと思った。
「たしかに怖そうな人たちを一言で追い返してしまうくらいの人だけど、玲ちゃんが思っているようなことは起きないと思うよ」
そう言われても、心配せずにはいられない。
咲乃が怪我でもすれば、きっと私は生きていけないだろう。
それくらい、私の中で咲乃の存在は大きいのだ。
これをそのまま言ってもよかったのだが、鬱陶しいと思われても嫌だったため、安心したと思わせるような、適当な相槌を打ってしまった。
「それから、歳は玲ちゃんたちと一緒だって言ってた。中学三年生」
となると、私は知っているかもしれない。
「名前は?」
「新城さん。新城隼人さんだよ」
知らない名だった。
そして、聞いて思い出した。さほど他人に興味がない私が、名前を聞いたところでわかるわけがなかった。
「もうどうしたの、玲ちゃん。質問ばっかり」
そうは言うが、咲乃は笑っている。不快には思っていないのだろう。
「そいつが本当に咲乃に相応しいかどうか、判断してやらなければならないからな」
結構本気で言ったが、咲乃は冗談と思ったらしい。
何度、本気だと言ってみても、軽く流されてしまう。
「玲ちゃん、そのくらいにしておきなよ。玲ちゃんは咲乃ちゃんの姉でも親でもないんだから」
佑真に止められてしまったが、言葉のチョイスが嫌だ。その言い方だと、私と咲乃が無関係みたいに思えてしまう。
「いいんです、先輩。こうなることは、なんとなく予想してました」
さすが、咲乃だ。私のことをよくわかっている。
褒めてやりたくなって、咲乃の頭を撫でる。
しかし佑真は不服そうだ。
咲乃もそれに気付き、助けを求めるように私を見てきた。
「佑真、お前は一体なにが気に入らないのだ。そんなあからさまに嫌そうな顔をされては、こっちもつまらなくなってしまうではないか」
「……玲ちゃんには、一生わからないよ」
佑真はそう言い捨てて、部屋を出ていった。
なんだったのだ。私には一生わからないとは、どういうことだ。
変なセリフを残していったから、気になってしまう。
「先輩、大丈夫かな」
「咲乃が心配することではない」
冷たいと思われてしまうだろうが、もともと私は佑真がここに来てほしいと思っていなかった。
佑真が来たいと駄々をこね、勝手に拗ねただけの話だ。気にしてやるまでもない。
「さあ、勉強しよう」
咲乃の気持ちは簡単に切り替わらなかったが、ある瞬間からスイッチが入ったのか、目の前の課題に集中するようになっていた。
◇
咲乃に彼氏ができて、約一ヶ月が経った。
登校は相変わらず一緒だが、帰りは別々に帰るようになった。
咲乃に勉強に集中してほしいから、一緒に帰らないと言われてしまったのだ。
しかしながら、私が勉強している間に、咲乃と新城隼人が仲良くしているのかと思うと新城隼人に腹が立って、集中などできたものではなかった。
ちなみに、志望校は偏差値が低い星月高校に変えた。
理由としては単純なもので、また咲乃と同じ校舎で過ごしたかっただけだ。
聞けば、新城隼人は不良のたまり場と有名な星月高校を受験するらしい。
咲乃もそれを追うと言うから、私もそこを選んだというわけだ。
正直、勉強の必要はないのだが、その報告をまだ咲乃にしていない。
咲乃はまだ私が進学校を受験すると思っているから、勉強に集中してほしいと言ってくるのだと思う。
これを知れば、もっと長く一緒にいられるかもしれない。
昼休み、咲乃の元に向かう私の足取りは軽かった。
ついでに咲乃の試験結果も聞こう。そうすれば、話す時間が伸ばせる。
しかしながら、こうして話題がなければ会いに行けないとは、なんとも寂しい関係になったものだ。
咲乃が足りていないから、私の日常がつまらなくなっていく。
そんなことを思いながら階段を降り、咲乃の教室に向かおうとすると、廊下で咲乃と佑真が話しているのを見つけた。
二人の表情は真剣で、邪魔ができる雰囲気ではなかった。
だが、邪魔をしたいという気持ちが強くなってしまった。
歩く速さを上げたのはいいが、近付く途中に佑真に気付かれてしまった。
気付かれては意味がないが、それでも佑真を突き飛ばした。
佑真は簡単にバランスを崩す。
「なにするの、玲ちゃん」
佑真は不満をぶつけてくる。
「私は咲乃に会うのを我慢しているというのに、お前が咲乃と話しているのがムカついた」
「理不尽」
そうだろうか。
まあ佑真のことなど、今はいいのだ。
「咲乃。星月高校に通うからな」
単刀直入に伝えると、咲乃は目を見開いた。それが妙に面白かった。
「そんなに驚くか?」
「だって、玲ちゃん頭いいのに、どうして」
どうしてそこを選んだのか。
咲乃は聞こうとして、やめた。きっと、理由がわかったのだろう。
呆れたように笑う。
私も、自分自身に呆れてしまうくらいだから、この反応は当然だろう。
「相変わらずだね、玲ちゃんは」
咲乃がそうして笑ってくれるのであれば、私はいつまでも、このままでいようと思った。