夢原のそれを聞いて、納得してしまった。
たしかに、無関係だと言うには無理があると思えるくらい、私たちは互いの心に踏み込んでいた。
「私とあんたの関係の名前なんて、今はどうでもいい。あんたがすでに同じことを繰り返してることのほうが大事」
言っている意味がわからなかった。
私はまだ、なにもしていない。
一体、どこが繰り返していると言うのだろう。
「あんたはまだ白雪咲乃にこだわってる。というか、囚われてる」
そうなるのも無理ないと同情してくれないあたり、夢原らしい。
「もっと外を見なよ。あんたが見ないといけない人は、もうそばにいる」
「つまり、夢原を見ろと?」
「そんな恥ずかしいこと、言ってない」
誰が聞いても、そう思うはずだというのに、否定されてしまって、私はどうすればいいのかわからなくなる。
夢原以外にいるのだろうか。まさか、新城とか言わないだろうな。
「井田。今日ここに来ようとしてたよ」
なるほど、井田なら来そうだ。
だが、それがどうした。
そういう考えがすべて顔に出ていたようで、夢原は呆れた顔をした。
「井田も、あんたの世界にいないわけ?」
そこまで言われて、ようやく理解した。
最後に井田に会ったのは、新城が咲乃のことを明かしたときだ。
それから何日も休めば、心配になるだろう。
だが私は、あの学校には私のことを心配してくれる人などいないと思っていた。
そもそもそういう奴がいるとは思えなかったし、なにより、知り合って一ヶ月でそこまで仲良くなれていると思っていなかった。
それなのに、井田は違ったらしい。
思い返せば、奴は最初から、私がどれだけ壁を作っても、それを壊そうとしてきた。
何度も、私のことを心配してくれていた。
「私はまた、周りが見えていなかったのだな」
「だから、そう言ったでしょ」
夢原はカバンを持って立ち上がった。
「帰るのか?」
「言いたいこと全部言ったし、もともと長居するつもりなかったし」
私たちの関係に、仮に友達という名をつけたとしても、私たちはまだ、雑談をするような仲ではなかった。
「明日は学校に来なさいよ。玲」
夢原は私の目を見ない。
照れるくらいなら、言わなければいいのに。
そう思う自分と、名前を呼ばれて喜んでいる私がいた。
「夢原がそう言うなら」
笑顔で答えたというのに、夢原は不服そうだ。
今のなにが気に入らなかったのだろう。
「そこは純恋でしょ。本当、空気が読めない人」
そして怒ったまま帰ってしまった。
最後の行動すべてが可愛らしく思えて、つい笑ってしまう。
「ちょっと玲、あの子怒って帰っていったけど、喧嘩でもしたの?」
母さんは夢原と入れ替わるように、私の部屋に来た。
あの夢原を見ると、そう思うのが普通だろう。
「いや、してないよ」
「それならいいけど」
適当な誤魔化しと取られてもおかしくなかったのに、母さんは満足そうにして言った。
「なにか嬉しいことでもあったのか?」
「別に?」
母さんのほうが誤魔化したから、私が気になってしまった。
一階に降りていく母さんを追っても、母さんは教えてくれない。
「そうだ、玲。今日のご飯はなに?」
母さんはキッチンに立つのではなく、食卓に座った。
「なににする、ではないのか」
そう言いながらもキッチンに入っていったのは、もはや癖とも言える。
「だって、玲が作るほうが美味しいから」
母さんの褒め言葉に内心では喜び、冷蔵庫を開けた。
◇
翌日、久しぶりに制服に腕を通す。
どんな着方をしてもいいとわかってはいるが、やはり私は規定の着方しかできない。
「行ってらっしゃい、玲」
「行ってきます」
母さんに見送られ、家を出る。
上着を着てこなくてよかったと思えるくらい、今日は暑かった。
昨日、夢原に喝を入れてもらったからだろうか。
とても心が軽かった。
「和多瀬ちゃん」
少し歩くと名前を呼ばれ、前のほうに井田と新城がいた。
井田は駆け寄ってくる。その勢いのまま両手を握られた。
「よかった、今日は学校に来てくれるんだね」
夢原が言っていたのは、本当だったらしい。
「すごく心配したんだから」
私が井田の勢いに戸惑っているのを見て、新城が引き離してくれた。
「井田、心配してくれてありがとう」
井田は満面の笑みを浮かべると、スキップでもしそうなくらい軽い足取りで学校への道を進んだ。
私と新城は、のんびりそれを追う。
「圭が迎えに行くって聞かなかったんだ」
「お前は案内係か」
昨日は夢原、今日は井田。
簡単に個人情報を教えるなと思ったが、二人の訪問が嬉しかったから、文句は言えない。
「やっと回復したんだな」
新城の声は呆れていた。
「いや、微妙だ。まだ咲乃のいない世界に慣れない」
「慣れる必要はないだろ。俺だって、咲乃のことを忘れたくないし」
慣れたくないという気持ちがあったから、新城がそう言ってくれたのは、泣きそうなほど嬉しかった。
「俺たちの世界は、これからどんどん広がっていく。いろんな人と出会って、たくさんの経験をする。でも俺は、俺の世界に咲乃がいたんだってことを、一生忘れない」
たしかに、無関係だと言うには無理があると思えるくらい、私たちは互いの心に踏み込んでいた。
「私とあんたの関係の名前なんて、今はどうでもいい。あんたがすでに同じことを繰り返してることのほうが大事」
言っている意味がわからなかった。
私はまだ、なにもしていない。
一体、どこが繰り返していると言うのだろう。
「あんたはまだ白雪咲乃にこだわってる。というか、囚われてる」
そうなるのも無理ないと同情してくれないあたり、夢原らしい。
「もっと外を見なよ。あんたが見ないといけない人は、もうそばにいる」
「つまり、夢原を見ろと?」
「そんな恥ずかしいこと、言ってない」
誰が聞いても、そう思うはずだというのに、否定されてしまって、私はどうすればいいのかわからなくなる。
夢原以外にいるのだろうか。まさか、新城とか言わないだろうな。
「井田。今日ここに来ようとしてたよ」
なるほど、井田なら来そうだ。
だが、それがどうした。
そういう考えがすべて顔に出ていたようで、夢原は呆れた顔をした。
「井田も、あんたの世界にいないわけ?」
そこまで言われて、ようやく理解した。
最後に井田に会ったのは、新城が咲乃のことを明かしたときだ。
それから何日も休めば、心配になるだろう。
だが私は、あの学校には私のことを心配してくれる人などいないと思っていた。
そもそもそういう奴がいるとは思えなかったし、なにより、知り合って一ヶ月でそこまで仲良くなれていると思っていなかった。
それなのに、井田は違ったらしい。
思い返せば、奴は最初から、私がどれだけ壁を作っても、それを壊そうとしてきた。
何度も、私のことを心配してくれていた。
「私はまた、周りが見えていなかったのだな」
「だから、そう言ったでしょ」
夢原はカバンを持って立ち上がった。
「帰るのか?」
「言いたいこと全部言ったし、もともと長居するつもりなかったし」
私たちの関係に、仮に友達という名をつけたとしても、私たちはまだ、雑談をするような仲ではなかった。
「明日は学校に来なさいよ。玲」
夢原は私の目を見ない。
照れるくらいなら、言わなければいいのに。
そう思う自分と、名前を呼ばれて喜んでいる私がいた。
「夢原がそう言うなら」
笑顔で答えたというのに、夢原は不服そうだ。
今のなにが気に入らなかったのだろう。
「そこは純恋でしょ。本当、空気が読めない人」
そして怒ったまま帰ってしまった。
最後の行動すべてが可愛らしく思えて、つい笑ってしまう。
「ちょっと玲、あの子怒って帰っていったけど、喧嘩でもしたの?」
母さんは夢原と入れ替わるように、私の部屋に来た。
あの夢原を見ると、そう思うのが普通だろう。
「いや、してないよ」
「それならいいけど」
適当な誤魔化しと取られてもおかしくなかったのに、母さんは満足そうにして言った。
「なにか嬉しいことでもあったのか?」
「別に?」
母さんのほうが誤魔化したから、私が気になってしまった。
一階に降りていく母さんを追っても、母さんは教えてくれない。
「そうだ、玲。今日のご飯はなに?」
母さんはキッチンに立つのではなく、食卓に座った。
「なににする、ではないのか」
そう言いながらもキッチンに入っていったのは、もはや癖とも言える。
「だって、玲が作るほうが美味しいから」
母さんの褒め言葉に内心では喜び、冷蔵庫を開けた。
◇
翌日、久しぶりに制服に腕を通す。
どんな着方をしてもいいとわかってはいるが、やはり私は規定の着方しかできない。
「行ってらっしゃい、玲」
「行ってきます」
母さんに見送られ、家を出る。
上着を着てこなくてよかったと思えるくらい、今日は暑かった。
昨日、夢原に喝を入れてもらったからだろうか。
とても心が軽かった。
「和多瀬ちゃん」
少し歩くと名前を呼ばれ、前のほうに井田と新城がいた。
井田は駆け寄ってくる。その勢いのまま両手を握られた。
「よかった、今日は学校に来てくれるんだね」
夢原が言っていたのは、本当だったらしい。
「すごく心配したんだから」
私が井田の勢いに戸惑っているのを見て、新城が引き離してくれた。
「井田、心配してくれてありがとう」
井田は満面の笑みを浮かべると、スキップでもしそうなくらい軽い足取りで学校への道を進んだ。
私と新城は、のんびりそれを追う。
「圭が迎えに行くって聞かなかったんだ」
「お前は案内係か」
昨日は夢原、今日は井田。
簡単に個人情報を教えるなと思ったが、二人の訪問が嬉しかったから、文句は言えない。
「やっと回復したんだな」
新城の声は呆れていた。
「いや、微妙だ。まだ咲乃のいない世界に慣れない」
「慣れる必要はないだろ。俺だって、咲乃のことを忘れたくないし」
慣れたくないという気持ちがあったから、新城がそう言ってくれたのは、泣きそうなほど嬉しかった。
「俺たちの世界は、これからどんどん広がっていく。いろんな人と出会って、たくさんの経験をする。でも俺は、俺の世界に咲乃がいたんだってことを、一生忘れない」