新城に対する誤解をときに来たはずなのに、私たちは自分のせいだと主張し、謝っていた。

「君たちが」

 さっきとは打って変わって、宏太朗さんの声は小さかった。

「玲ちゃんたちがそこまで自分を責めることはない。あの結果に至るまで、いろいろなことがあったかもしれない。でも、簡単に言ってしまえば、咲乃が誰の言うことも聞かずにわがままを突き通しただけだ。やっぱり、君たちは悪くないよ」

 とても、頭ごなしに新城を責めていた人と同一人物には見えない。
 だが、この優しさは知っている。私が知る、宏太朗さんがここにいる。

 ちゃんと話をしに来てよかった。

「そうだよ。それに、一度失敗したとき、咲乃に人との付き合い方をちゃんと教えられなかった私たちにも責任がある。だから、そんなに気負わないで」

 宏太朗さんも瑞歩さんも、私たちを責めなかった。
 それが、とてもつらかった。

 責められてもつらいはずなのに、思いっきりお前のせいだと言われてしまうほうが、楽になれたような気がした。

「新城さん」

 宏太朗さんに名前を呼ばれた新城は、驚きのあまり、過剰に反応した。

 宏太朗さんは頭を下げる。

「酷いことを言って、申し訳なかった。最悪な言葉を、君にぶつけてしまった。大人として最低だ」
「いえ、そんな」

 宏太朗さんに謝られて、新城は戸惑いを見せた。
 それから、大粒の涙を流した。新城は慌てて涙を拭うが、止まるようには見えない。

 新城は気丈に振舞っていただけだった。
『喜んで恨まれ役を買う』というのも、強がりだったのかもしれない。

 やはり、疑われて平気な人なんていないのだ。

「君が悪い人じゃないっていうのは、咲乃を見ていればわかったよ。毎日、楽しそうな顔をしていた。咲乃をそれだけ幸せにしてくれる人が、悪い人なわけないんだ。それなのに僕は、君を責めてしまった。本当に、ごめんなさい」

 宏太朗さんの言葉は、どんどん新城の涙腺を壊していった。

 男がこれほど泣く場面を見たことがなくて、私はどうすればいいのかわからなかった。

「咲乃を幸せにしてくれて、ありがとう」

 宏太朗さんは涙ぐんでいるが、微笑んで言った。

 新城はとうとう、声を抑えなくなった。その泣き叫ぶ声には、後悔が含まれているような気がした。
 新城のつらそうな声に胸を締め付けられ、私まで泣いてしまった。

「二人とも、咲乃を好きになってくれて、ありがとう」

 それなのに、瑞歩さんが追い打ちをかけるようなことを言ってきた。
 私たちは、迷惑だとわかっていながら、泣くことをやめられなかった。



 咲乃の家を出る前に、もう一度、仏壇の前で手を合わせる。

 咲乃、遅くなってごめん。ゆっくり休んでくれ。

 目を開けると、満面の笑みの咲乃と目が合った。

「またな、咲乃」

 最後の別れを言いにきたのに、さよならなんて言えなかった。

「さよならじゃないのかよ」

 私と同じく手を合わせていた新城が、余計なことを言ってきた。

「新城は言えたのか? さよなら、と」

 無言を貫かれた。
 図星ではないか。

「瑞歩さん、遅くまで居座ってしまって、すまない」

 遠くで私たちを見守っていた瑞歩さんは、小さく首を振った。

「二人とも、また来てね。今度は、楽しい話が聞きたいな。咲乃がどんな恋をしていたのか、とかね」

 瑞歩さんの言葉に、新城は照れて耳を赤くしながら、顔を背けていた。