◆
咲乃と出会ったのは、二月の初めだった。
偶然通りかかったコンビニの前で、男共に絡まれているところに声をかけた。
普段なら無視をするが、咲乃の困っている顔から目が離せなくて、つい口を挟んだ。
「なにしてんだよ」
咲乃の手を掴んでる男の腕を強く握った。男は顔を歪め、俺から逃げようとする。
「なんだお前。ヒーロー気取りか」
ほかの奴らが睨んでくるが、一ミリも怖くなかった。
逆に睨んでやると、男共の表情は恐怖に染まり、逃げていった。
咲乃と二人きりになり、なんとなく気まずかった。
というか、女子との話し方がわからなくて、その場を去るしかないと思った。
だが、俺は咲乃に引き止められた。
「あの、彼女いますか?」
予想外の言葉だった。
俺の服を掴む咲乃の手は震えていて、緊張しているのがわかる。
「いないけど」
素っ気なく返してしまったのには、すぐ後悔した。
怖がらせてしまう。
そう思ったのに、咲乃は安心した顔を見せた。
「私、白雪咲乃って言います。もしよかったら、付き合ってもらえませんか?」
出会って数分で告白されるとは当然思っていなかったから、俺は反応できなかった。
俺がなにも言わなかったことで、咲乃はわかりやすく慌て始めた。
「急にこんなこと言われても、迷惑ですよね。ごめんなさい。でも、これで終わりにしたくないというか……」
可愛いと思った。
きっと、見かけたときからそう思っていたのだと思う。
「いいよ。付き合っても」
咲乃の笑顔は眩しかった。そして、守りたいと思った。
それから和多瀬の家に行くと言うから、送ることにした。
「えっと、お名前とか聞いてもいいですか?」
咲乃は順番をすっ飛ばしたことを恥ずかしく思ったのか、俺の顔を見なかった。
「新城隼人」
「新城、隼人さん」
咲乃が俺の名前を確かめるように繰り返した。
自分の名前を特別に感じたのは、これが初めてだった。
「もう少しいろいろ聞いてもいいですか?」
和多瀬の家に着くまで、俺たちは情報を交換した。
歳や学校のこと、好きな食べ物や音楽。そのとき和多瀬のことも聞いた。
その時間は生まれて初めて楽しいと思えた瞬間だった。
「短い時間でしたが、とても楽しかったです」
「俺も楽しかった」
もっと続いてほしいと思うくらいだった。
「あの、新城さんはスマホとか持っていますか?」
「あるけど」
「番号、教えてください。夜に電話します」
それから番号を交換して、俺たちは別れた。
自宅に戻る途中、コンビニで会った男三人と再会した。
囲まれて、人目がない場所に移動させられる。
そこは古い倉庫で、奴らの仲間らしき奴らがいた。
「さっきは邪魔しやがって」
「ボコボコにしてやる」
安いセリフだと思った。
「弱い奴ほどよく群れる」
俺の挑発の言葉に乗り、奴らは殴りかかってきた。
俺の喧嘩話はどうでもいいだろうから省略すると、返り討ちにしてやった。
そして、思い出した。
俺がいるのは、こういう世界なのだ、と。
咲乃を危険に巻き込むのではないかと思った。
だが、俺には咲乃を手放すという選択肢はなくて、変わろうと思った。
なにがあっても喧嘩はしない。一般的に悪いとされることはしない。
少しでも、咲乃に迷惑をかけるようなことはしない。
そう誓って、行動していた。
「最近の隼人、なんか変」
そんなある日、夢原につまらなさそうに言われた。
「なにかあったの?」
「彼女ができた」
夢原は過剰に反応した。
「彼女って、なんで?」
「告白されたから」
「どんな子?」
「年下で、笑顔が似合う子、だな」
「別れる予定は?」
「付き合い始めたばかりで別れるかよ」
「なんでその子なの?」
「いいと思ったから」
「どこがいいの?」
「もういいだろ、しつこい」
質問攻めを強制的に終わらせると、夢原はふてくされてしまった。
「隼人の彼女、会ってみたい」
「僕も会いたい」
「じゃあ、僕も」
夢原に便乗して、圭と冬夜が言った。
これを断れば、さらに面倒になるとわかっていたから、仕方なく会わせることにした。
「はじめまして、白雪咲乃です」
最初の咲乃は、普通に笑顔だった。
それが崩れるまで、そう時間はかからなかった。
圭と冬夜が自己紹介をして、夢原の番になった。
「隼人、本当にこの子でいいの? なんか地味だけど」
夢原は名乗るよりも先に、そう言った。
それを聞いてから、咲乃から笑顔が消えた。
「ごめんね、咲乃ちゃん。純恋ちゃん、隼人のこととなると、手がつけられなくなっちゃうんだ」
すかさず圭がフォローしてくれたけど、咲乃に笑顔が戻ってくることはなかった。
「……ヤキモチ?」
圭たちが夢原を連れて帰ってくれてから、そう聞いてみた。
心のどこかで、そうあってほしいと思った。
だが、咲乃は首を横に振った。
「そんな、可愛いものじゃないです」
それ以外にないだろうと思っていたから、ほかになにがあるのかわからなかった。
「私、大切な人と一緒にいる時間が大好きなんですけど、それを邪魔しようとする人を、なんというか……嫌いだって思っちゃうんです」
そんなことがあるのかと思ったが、あの態度を見たからか、腑に落ちた。
咲乃と出会ったのは、二月の初めだった。
偶然通りかかったコンビニの前で、男共に絡まれているところに声をかけた。
普段なら無視をするが、咲乃の困っている顔から目が離せなくて、つい口を挟んだ。
「なにしてんだよ」
咲乃の手を掴んでる男の腕を強く握った。男は顔を歪め、俺から逃げようとする。
「なんだお前。ヒーロー気取りか」
ほかの奴らが睨んでくるが、一ミリも怖くなかった。
逆に睨んでやると、男共の表情は恐怖に染まり、逃げていった。
咲乃と二人きりになり、なんとなく気まずかった。
というか、女子との話し方がわからなくて、その場を去るしかないと思った。
だが、俺は咲乃に引き止められた。
「あの、彼女いますか?」
予想外の言葉だった。
俺の服を掴む咲乃の手は震えていて、緊張しているのがわかる。
「いないけど」
素っ気なく返してしまったのには、すぐ後悔した。
怖がらせてしまう。
そう思ったのに、咲乃は安心した顔を見せた。
「私、白雪咲乃って言います。もしよかったら、付き合ってもらえませんか?」
出会って数分で告白されるとは当然思っていなかったから、俺は反応できなかった。
俺がなにも言わなかったことで、咲乃はわかりやすく慌て始めた。
「急にこんなこと言われても、迷惑ですよね。ごめんなさい。でも、これで終わりにしたくないというか……」
可愛いと思った。
きっと、見かけたときからそう思っていたのだと思う。
「いいよ。付き合っても」
咲乃の笑顔は眩しかった。そして、守りたいと思った。
それから和多瀬の家に行くと言うから、送ることにした。
「えっと、お名前とか聞いてもいいですか?」
咲乃は順番をすっ飛ばしたことを恥ずかしく思ったのか、俺の顔を見なかった。
「新城隼人」
「新城、隼人さん」
咲乃が俺の名前を確かめるように繰り返した。
自分の名前を特別に感じたのは、これが初めてだった。
「もう少しいろいろ聞いてもいいですか?」
和多瀬の家に着くまで、俺たちは情報を交換した。
歳や学校のこと、好きな食べ物や音楽。そのとき和多瀬のことも聞いた。
その時間は生まれて初めて楽しいと思えた瞬間だった。
「短い時間でしたが、とても楽しかったです」
「俺も楽しかった」
もっと続いてほしいと思うくらいだった。
「あの、新城さんはスマホとか持っていますか?」
「あるけど」
「番号、教えてください。夜に電話します」
それから番号を交換して、俺たちは別れた。
自宅に戻る途中、コンビニで会った男三人と再会した。
囲まれて、人目がない場所に移動させられる。
そこは古い倉庫で、奴らの仲間らしき奴らがいた。
「さっきは邪魔しやがって」
「ボコボコにしてやる」
安いセリフだと思った。
「弱い奴ほどよく群れる」
俺の挑発の言葉に乗り、奴らは殴りかかってきた。
俺の喧嘩話はどうでもいいだろうから省略すると、返り討ちにしてやった。
そして、思い出した。
俺がいるのは、こういう世界なのだ、と。
咲乃を危険に巻き込むのではないかと思った。
だが、俺には咲乃を手放すという選択肢はなくて、変わろうと思った。
なにがあっても喧嘩はしない。一般的に悪いとされることはしない。
少しでも、咲乃に迷惑をかけるようなことはしない。
そう誓って、行動していた。
「最近の隼人、なんか変」
そんなある日、夢原につまらなさそうに言われた。
「なにかあったの?」
「彼女ができた」
夢原は過剰に反応した。
「彼女って、なんで?」
「告白されたから」
「どんな子?」
「年下で、笑顔が似合う子、だな」
「別れる予定は?」
「付き合い始めたばかりで別れるかよ」
「なんでその子なの?」
「いいと思ったから」
「どこがいいの?」
「もういいだろ、しつこい」
質問攻めを強制的に終わらせると、夢原はふてくされてしまった。
「隼人の彼女、会ってみたい」
「僕も会いたい」
「じゃあ、僕も」
夢原に便乗して、圭と冬夜が言った。
これを断れば、さらに面倒になるとわかっていたから、仕方なく会わせることにした。
「はじめまして、白雪咲乃です」
最初の咲乃は、普通に笑顔だった。
それが崩れるまで、そう時間はかからなかった。
圭と冬夜が自己紹介をして、夢原の番になった。
「隼人、本当にこの子でいいの? なんか地味だけど」
夢原は名乗るよりも先に、そう言った。
それを聞いてから、咲乃から笑顔が消えた。
「ごめんね、咲乃ちゃん。純恋ちゃん、隼人のこととなると、手がつけられなくなっちゃうんだ」
すかさず圭がフォローしてくれたけど、咲乃に笑顔が戻ってくることはなかった。
「……ヤキモチ?」
圭たちが夢原を連れて帰ってくれてから、そう聞いてみた。
心のどこかで、そうあってほしいと思った。
だが、咲乃は首を横に振った。
「そんな、可愛いものじゃないです」
それ以外にないだろうと思っていたから、ほかになにがあるのかわからなかった。
「私、大切な人と一緒にいる時間が大好きなんですけど、それを邪魔しようとする人を、なんというか……嫌いだって思っちゃうんです」
そんなことがあるのかと思ったが、あの態度を見たからか、腑に落ちた。