選んだ理由に関しては、自分でもバカだと思っている。同意しよう。
しかし、もう一つの文だ。ずっと気になっていたこと。
咲乃と新城隼人は、本当に別れていたのか。
「新城。咲乃ことで、少し話せないか?」
彼女の反応を無視し、新城に話しかけたことで、彼女の怒りを買ってしまった。
彼女は今にも掴みかかってきそうな勢いで迫ってくる。
「無視しないでよ」
「夢原」
新城隼人が呼んだだけで、彼女の怖い顔は消えた。
「和多瀬は咲乃の大切な人だ。雑に扱うのは許さない」
彼女は舌打ちをして、私から離れた。
だが、新城隼人の背後から睨んできている。そんなに見張られていては話しにくくなるが、気にしないようにするしかない。
「お前が咲乃にフラれたというのは、本当か」
単刀直入に言った。
新城隼人と話す時間が長くなればなるほど、彼女に睨まれてしまうから、というのは建前だ。
単に、なにから話せばいいのか混乱していただけだ。
ゆえに、とりあえず一番気になっていたことを聞いてみることにしたにすぎない。
しかしながら、かなり答えやすい質問だというのに、新城隼人は無反応だ。
この無言にどんな意味があるのかを読み取れるほど、私は新城隼人のことを知らない。
表情の微妙な変化を見抜くことだってできない。
これ以上、互いに黙り、無駄な時間を作ってしまうのは避けたい。
なにか、話を進められるような質問を。
「咲乃の今を、知っているか?」
また目的に近い質問だ。
ここまで会話をすることが下手だとは思わなかった。
自分のコミュニケーション能力の低さに呆れながら新城隼人を見ると、奴は目を見開き、顔を背けた。
この反応、咲乃がこの世にいないことを知っているな。
そしておそらく、なにか隠している。
さらに踏み込んだ質問をしてやろうと思ったとき、体育館に集まれという指示が出された。
入学式の時間となってしまったらしい。
「また話そう、新城」
私は立ち上がり、教室を後にした。
◇
疲れた。
奴らの騒がしさに、すべての体力を奪われてしまった気分だ。
静かに話を聞くことは、小学生でもできるぞ。
小学生以下なのか、ここの奴らは。
教室に戻ると、もう指定席などなくなっていた。
私の席には、赤髪が戻ってきている。当たり前のように、銀髪はメガネ男子の席に座っている。
「今日限りは、指定した席に座るように言われたのに、わかっていない人たちがいるみたいですね」
どうしようか考えていたら、メガネ男子が隣にいた。
メガネ男子は私に笑いかけているが、どう反応すればいいのかわからず、愛想笑いしかできなかった。
メガネ男子は赤髪たちに近付く。
「そこ、僕たちの席ですよ。それもわからないくらい、バカなんですか?」
穏やかに、だがはっきりと言った。私でも喧嘩を売っていることはわかる。
銀髪は喧嘩を買い、メガネ男子の胸ぐらを掴んだ。
「調子に乗んなよ、メガネ」
メガネ男子は銀髪の腕を掴み、捻った。銀髪が痛みを訴えるが、メガネ男子は手を離さない。
「冬夜、ムカつくのはわかるけど、ケガさせるのはダメだよ」
いつの間にか近くにいた茶髪が、笑って注意している。
メガネ男子の暴力性にも驚いたが、その光景を見て笑っている茶髪のほうが怖い。
メガネ男子は仕方ないと言わんばかりに、手を離した。
銀髪はもう一度、メガネ男子に掴みかかろうとするが、それを止めたのは赤髪だった。
「辞めとけ。藤冬夜と井田圭だ。敵に回さないほうがいい」
銀髪は舌打ちをし、どこかに行ってしまった。
メガネ男子は自分の席に、茶髪はその席の前に立って雑談を楽しんでいる。
真面目そうに見えて短気なメガネ男子。
元気キャラのようで闇が深そうな茶髪。
こいつら、結構面白い奴らなのかもしれない。
「藤。井田」
何度か聞いていた、二人の名前を言ってみる。
藤は振り返り、井田は笑顔を向けてくる。
「どうしたの? 玲ちゃん」
まさか下の名前で呼ばれると思っていなくて、変な声が出た。
「その呼び方はやめてくれ」
自分の席に座りながら言う。
「じゃあ、和多瀬ちゃん」
井田はどうしても私との距離を縮めておきたいらしい。
咲乃と佑真以外の人たちと仲良くしてこなかったから、この距離の縮め方には戸惑ってしまう。
「僕たちになにか用?」
そういえば、私が呼んだのだった。
「呼んだだけだ。気にするな」
「なにそれ、余計気になるんだけど」
井田は身を乗り出した。
井田を動物で例えれば、犬だ。この人懐っこさは咲乃を思い出させる。
「お前は咲乃みたいだな」
思ったことをそのまま言ったのだが、井田は驚いている。
「僕より、冬夜とか、隼人のほうが咲乃ちゃんに似てない?」
「藤と咲乃が?」
藤を見るが、嘘くさい笑顔を浮かべている。
これのどこが咲乃に似ているのだろうか。
「咲乃ちゃんはどれだけ話しかけても、隼人にしか心を開かなかったんだよ」
それは私が知っている咲乃とはかけ離れていて、理解が追いつかなかった。
しかし、もう一つの文だ。ずっと気になっていたこと。
咲乃と新城隼人は、本当に別れていたのか。
「新城。咲乃ことで、少し話せないか?」
彼女の反応を無視し、新城に話しかけたことで、彼女の怒りを買ってしまった。
彼女は今にも掴みかかってきそうな勢いで迫ってくる。
「無視しないでよ」
「夢原」
新城隼人が呼んだだけで、彼女の怖い顔は消えた。
「和多瀬は咲乃の大切な人だ。雑に扱うのは許さない」
彼女は舌打ちをして、私から離れた。
だが、新城隼人の背後から睨んできている。そんなに見張られていては話しにくくなるが、気にしないようにするしかない。
「お前が咲乃にフラれたというのは、本当か」
単刀直入に言った。
新城隼人と話す時間が長くなればなるほど、彼女に睨まれてしまうから、というのは建前だ。
単に、なにから話せばいいのか混乱していただけだ。
ゆえに、とりあえず一番気になっていたことを聞いてみることにしたにすぎない。
しかしながら、かなり答えやすい質問だというのに、新城隼人は無反応だ。
この無言にどんな意味があるのかを読み取れるほど、私は新城隼人のことを知らない。
表情の微妙な変化を見抜くことだってできない。
これ以上、互いに黙り、無駄な時間を作ってしまうのは避けたい。
なにか、話を進められるような質問を。
「咲乃の今を、知っているか?」
また目的に近い質問だ。
ここまで会話をすることが下手だとは思わなかった。
自分のコミュニケーション能力の低さに呆れながら新城隼人を見ると、奴は目を見開き、顔を背けた。
この反応、咲乃がこの世にいないことを知っているな。
そしておそらく、なにか隠している。
さらに踏み込んだ質問をしてやろうと思ったとき、体育館に集まれという指示が出された。
入学式の時間となってしまったらしい。
「また話そう、新城」
私は立ち上がり、教室を後にした。
◇
疲れた。
奴らの騒がしさに、すべての体力を奪われてしまった気分だ。
静かに話を聞くことは、小学生でもできるぞ。
小学生以下なのか、ここの奴らは。
教室に戻ると、もう指定席などなくなっていた。
私の席には、赤髪が戻ってきている。当たり前のように、銀髪はメガネ男子の席に座っている。
「今日限りは、指定した席に座るように言われたのに、わかっていない人たちがいるみたいですね」
どうしようか考えていたら、メガネ男子が隣にいた。
メガネ男子は私に笑いかけているが、どう反応すればいいのかわからず、愛想笑いしかできなかった。
メガネ男子は赤髪たちに近付く。
「そこ、僕たちの席ですよ。それもわからないくらい、バカなんですか?」
穏やかに、だがはっきりと言った。私でも喧嘩を売っていることはわかる。
銀髪は喧嘩を買い、メガネ男子の胸ぐらを掴んだ。
「調子に乗んなよ、メガネ」
メガネ男子は銀髪の腕を掴み、捻った。銀髪が痛みを訴えるが、メガネ男子は手を離さない。
「冬夜、ムカつくのはわかるけど、ケガさせるのはダメだよ」
いつの間にか近くにいた茶髪が、笑って注意している。
メガネ男子の暴力性にも驚いたが、その光景を見て笑っている茶髪のほうが怖い。
メガネ男子は仕方ないと言わんばかりに、手を離した。
銀髪はもう一度、メガネ男子に掴みかかろうとするが、それを止めたのは赤髪だった。
「辞めとけ。藤冬夜と井田圭だ。敵に回さないほうがいい」
銀髪は舌打ちをし、どこかに行ってしまった。
メガネ男子は自分の席に、茶髪はその席の前に立って雑談を楽しんでいる。
真面目そうに見えて短気なメガネ男子。
元気キャラのようで闇が深そうな茶髪。
こいつら、結構面白い奴らなのかもしれない。
「藤。井田」
何度か聞いていた、二人の名前を言ってみる。
藤は振り返り、井田は笑顔を向けてくる。
「どうしたの? 玲ちゃん」
まさか下の名前で呼ばれると思っていなくて、変な声が出た。
「その呼び方はやめてくれ」
自分の席に座りながら言う。
「じゃあ、和多瀬ちゃん」
井田はどうしても私との距離を縮めておきたいらしい。
咲乃と佑真以外の人たちと仲良くしてこなかったから、この距離の縮め方には戸惑ってしまう。
「僕たちになにか用?」
そういえば、私が呼んだのだった。
「呼んだだけだ。気にするな」
「なにそれ、余計気になるんだけど」
井田は身を乗り出した。
井田を動物で例えれば、犬だ。この人懐っこさは咲乃を思い出させる。
「お前は咲乃みたいだな」
思ったことをそのまま言ったのだが、井田は驚いている。
「僕より、冬夜とか、隼人のほうが咲乃ちゃんに似てない?」
「藤と咲乃が?」
藤を見るが、嘘くさい笑顔を浮かべている。
これのどこが咲乃に似ているのだろうか。
「咲乃ちゃんはどれだけ話しかけても、隼人にしか心を開かなかったんだよ」
それは私が知っている咲乃とはかけ離れていて、理解が追いつかなかった。