◇
星月高校に着くと、すぐに居心地の悪さを感じた。
不良のたまり場とは、こういうことか。
どこを見てもカラフルな頭で、誰一人、制服を真面目に着ていない。
男子はガラが悪い奴らが多く、女子はギャルばかりだ。
自分が場違いであることは、すぐにわかった。私の横を通っていく奴ら、特に女子が、嘲笑しながら私を抜いていく。
帰りたい。
こんな場所、今すぐにでも出ていきたい。
いや、新城隼人がいるかどうかだけは知っておきたい。
いなければ、通わなければいい話なのだから。
そう思って人混みの中を進んでいき、なんとか受付台までたどり着いた。
この騒がしさは、もはや小学生レベルだ。とても同い年の集まりとは思えない。
「お名前は?」
先生と思われる女の人に言われ、名乗る。
「和多瀬玲さんは、一年C組の二十番です」
その説明を受けながら、新城隼人の名前を探した。
「和多瀬さん?」
しかし反対から見ていたことと名前の多さからすぐに見つけられず、怪しまれてしまった。
軽く頭を下げ、とりあえず教室に向かうことにした。
一年C組の下駄箱を探し、上履きに履き替える。
そして校舎に踏み入れるが、また新たに帰りたくなる原因を見つけてしまった。
壁にも床にも落書き、ゴミが転がっている、なぜか暗く感じる校舎内。
ダメだ、肌に合わない。
いや、まだ帰れない。
もうこの繰り返しで、なんとか一年C組の教室に着いた。
黒板に新入生を歓迎するような言葉があり、中央に一枚の紙が貼ってあった。座席表だ。
正直、自分の席は探すまでもなかったから、新城隼人の名前を探すほうに集中した。
「あった」
廊下側の一番後ろ。
たしかに新城隼人と書いてある。
そうか、同じクラスだつたのか。
すぐに目的が達成できそうだとわかり、少し嬉しくなる。
しかし振り返って、気分は地に落ちる。
教室内の机が乱れていた。
今日が入学式だというのに、どの列も揃っていない。
こんなことがあっていいのか。
とても歓迎されているようには思えない。
私の気分を害したのは、それだけではない。
誰も座席表を守っていないのだ。
私の席である窓際の一番後ろは、強面の赤髪男が机に足を乗せて座っている。隣の銀髪と会話を楽しんでいるようだ。
自分の席に勝手に座られていると、お前はいらないと言われているような気がしてならない。
最悪だ。最悪としか、言いようがない。
そういえば、この教室に入っても、座席表を見に来る者がいない。
つまり、座席表はあってないようなものなのか。自由がすぎる。いくら自由な校風だとしても、これはない。
だが、仕方ないことだと自分に言い聞かせ、不人気であろう教卓の前の席を選んだ。
人が増えるにつれて、騒がしさもパワーアップしていく。奴らの騒ぐ声が耳障りで、耳を塞ぐ。
この中で生活していけるとは、到底思えない。
あまり思いたくはないが、咲乃がこの高校に通うことにならなくてよかったと思った。
「お前ら、今日だけは指定の席に座れ」
耳を塞いでいたのに、男の人の大きな声がよく聞こえた。顔を上げると、目を合わせたくないほど怖い人が立っていた。
まるでヤのつく人だ。仕事を間違えていないか。
なんて失礼なことを思いながら立ち上がったのはいいが、動いている人はほとんどいなかった。
これでは移動できない。
「お前、名前は」
しまった、この席を選んでしまったせいで、話しかけられてしまった。
しかし名乗らなかったときのほうが怖い。
「和多瀬、玲です」
声が震えた。
私の名前を聞いて、先生は顔を顰めた。
「“わ”なら、絶対そこじゃないだろ」
私もそう思う。
これまでの学校生活で、出席番号順のときは大抵、窓際の一番後ろという最高の席だったから、教卓の前にいることは、違和感でしかないのだ。
「どうしてそこにいるんだ。真面目そうにしておきながら、実は教師に従いたくないのか?」
どこを見て私を真面目と思ったのか、と言いたかったが、この学校では、制服を着崩していないだけで、真面目と思われるのだろう。
「まさか、先に座られていただけです」
しかしながら、従いたくないと思っていると勘違いされては困るから、即否定した。
先生は私が座るはずの席を見て、口角を上げた。
笑えば普通にいい人そうだ。
第一印象があれだっただけに、笑顔で親しみやすさのようなものを感じた。
「あの赤髪に言えなかったのか」
「言えると思うか?」
そう言って、口を塞いだ。
いくら怖くなくなったからといって、今の言い方はよくないだろう。怒られる。
そう思ったのに、先生は豪快に笑った。
「そんなに気にするな。堅苦しいのはお互いに壁を感じるだけだからな」
第一印象がどんどん覆されていく。
もっと、見た目からいい人そうなオーラがあれば、警戒しなかった。
だが、この不良校でいい人をやっていれば、きっと舐められてしまうだろう。先生も大変だな。
「安心しろ。ここにいるのはだいたい見掛け倒しだ。席変われ、くらいで殴ってくる奴はいない。多分」
最後に多分と言っただけで、不安が戻ってきたではないか。
「まあ、最初は怖いよな」
わかってくれてなによりだ。
先生はまた赤髪を見た。
「窓際の一番後ろ、そこの赤髪。お前の席はそこじゃないだろ」
先生は私の代わりに、赤髪に言ってくれた。
しかし予想通りに、赤髪は先生を睨みつけた。
どこが見掛け倒しだ。普通に掴みかかってきそうに見える。
「お前なあ、女子に席を代わってやることもできないのか」
それなのに、先生は喧嘩を売るようなことを言った。そのせいで、私が赤髪に睨まれてしまった。
ああ、帰りたい。
星月高校に着くと、すぐに居心地の悪さを感じた。
不良のたまり場とは、こういうことか。
どこを見てもカラフルな頭で、誰一人、制服を真面目に着ていない。
男子はガラが悪い奴らが多く、女子はギャルばかりだ。
自分が場違いであることは、すぐにわかった。私の横を通っていく奴ら、特に女子が、嘲笑しながら私を抜いていく。
帰りたい。
こんな場所、今すぐにでも出ていきたい。
いや、新城隼人がいるかどうかだけは知っておきたい。
いなければ、通わなければいい話なのだから。
そう思って人混みの中を進んでいき、なんとか受付台までたどり着いた。
この騒がしさは、もはや小学生レベルだ。とても同い年の集まりとは思えない。
「お名前は?」
先生と思われる女の人に言われ、名乗る。
「和多瀬玲さんは、一年C組の二十番です」
その説明を受けながら、新城隼人の名前を探した。
「和多瀬さん?」
しかし反対から見ていたことと名前の多さからすぐに見つけられず、怪しまれてしまった。
軽く頭を下げ、とりあえず教室に向かうことにした。
一年C組の下駄箱を探し、上履きに履き替える。
そして校舎に踏み入れるが、また新たに帰りたくなる原因を見つけてしまった。
壁にも床にも落書き、ゴミが転がっている、なぜか暗く感じる校舎内。
ダメだ、肌に合わない。
いや、まだ帰れない。
もうこの繰り返しで、なんとか一年C組の教室に着いた。
黒板に新入生を歓迎するような言葉があり、中央に一枚の紙が貼ってあった。座席表だ。
正直、自分の席は探すまでもなかったから、新城隼人の名前を探すほうに集中した。
「あった」
廊下側の一番後ろ。
たしかに新城隼人と書いてある。
そうか、同じクラスだつたのか。
すぐに目的が達成できそうだとわかり、少し嬉しくなる。
しかし振り返って、気分は地に落ちる。
教室内の机が乱れていた。
今日が入学式だというのに、どの列も揃っていない。
こんなことがあっていいのか。
とても歓迎されているようには思えない。
私の気分を害したのは、それだけではない。
誰も座席表を守っていないのだ。
私の席である窓際の一番後ろは、強面の赤髪男が机に足を乗せて座っている。隣の銀髪と会話を楽しんでいるようだ。
自分の席に勝手に座られていると、お前はいらないと言われているような気がしてならない。
最悪だ。最悪としか、言いようがない。
そういえば、この教室に入っても、座席表を見に来る者がいない。
つまり、座席表はあってないようなものなのか。自由がすぎる。いくら自由な校風だとしても、これはない。
だが、仕方ないことだと自分に言い聞かせ、不人気であろう教卓の前の席を選んだ。
人が増えるにつれて、騒がしさもパワーアップしていく。奴らの騒ぐ声が耳障りで、耳を塞ぐ。
この中で生活していけるとは、到底思えない。
あまり思いたくはないが、咲乃がこの高校に通うことにならなくてよかったと思った。
「お前ら、今日だけは指定の席に座れ」
耳を塞いでいたのに、男の人の大きな声がよく聞こえた。顔を上げると、目を合わせたくないほど怖い人が立っていた。
まるでヤのつく人だ。仕事を間違えていないか。
なんて失礼なことを思いながら立ち上がったのはいいが、動いている人はほとんどいなかった。
これでは移動できない。
「お前、名前は」
しまった、この席を選んでしまったせいで、話しかけられてしまった。
しかし名乗らなかったときのほうが怖い。
「和多瀬、玲です」
声が震えた。
私の名前を聞いて、先生は顔を顰めた。
「“わ”なら、絶対そこじゃないだろ」
私もそう思う。
これまでの学校生活で、出席番号順のときは大抵、窓際の一番後ろという最高の席だったから、教卓の前にいることは、違和感でしかないのだ。
「どうしてそこにいるんだ。真面目そうにしておきながら、実は教師に従いたくないのか?」
どこを見て私を真面目と思ったのか、と言いたかったが、この学校では、制服を着崩していないだけで、真面目と思われるのだろう。
「まさか、先に座られていただけです」
しかしながら、従いたくないと思っていると勘違いされては困るから、即否定した。
先生は私が座るはずの席を見て、口角を上げた。
笑えば普通にいい人そうだ。
第一印象があれだっただけに、笑顔で親しみやすさのようなものを感じた。
「あの赤髪に言えなかったのか」
「言えると思うか?」
そう言って、口を塞いだ。
いくら怖くなくなったからといって、今の言い方はよくないだろう。怒られる。
そう思ったのに、先生は豪快に笑った。
「そんなに気にするな。堅苦しいのはお互いに壁を感じるだけだからな」
第一印象がどんどん覆されていく。
もっと、見た目からいい人そうなオーラがあれば、警戒しなかった。
だが、この不良校でいい人をやっていれば、きっと舐められてしまうだろう。先生も大変だな。
「安心しろ。ここにいるのはだいたい見掛け倒しだ。席変われ、くらいで殴ってくる奴はいない。多分」
最後に多分と言っただけで、不安が戻ってきたではないか。
「まあ、最初は怖いよな」
わかってくれてなによりだ。
先生はまた赤髪を見た。
「窓際の一番後ろ、そこの赤髪。お前の席はそこじゃないだろ」
先生は私の代わりに、赤髪に言ってくれた。
しかし予想通りに、赤髪は先生を睨みつけた。
どこが見掛け倒しだ。普通に掴みかかってきそうに見える。
「お前なあ、女子に席を代わってやることもできないのか」
それなのに、先生は喧嘩を売るようなことを言った。そのせいで、私が赤髪に睨まれてしまった。
ああ、帰りたい。