数ヶ月後、私は一人あの鉄橋の上にいた。私たちの始まりの場所に。
 レイ君と出会った頃は紅葉が舞っていた川も、今では桜の花びらが舞い散っている。
 レイ君と過ごしたあの四週間は、私にとってかけがえのない宝物だ。
 
「なんて、もうレイ君はいないのにね」
「勝手に殺すな」
「遠矢君。検査は終わったの?」

 いつの間に来たのか、遠矢君は私の頭を小突くと隣に並んだ。こうやって一緒にいると、まるであの日々に戻ったみたいだ。

「ああ。後遺症とかも残ってないし、もう大丈夫だろうって」
「そっか、よかった」

 二年間も眠り続けていたのに、後遺症の一つもないなんて奇跡のようだと先生が言っていたという話を遠矢君から聞いた。ただどうしても筋力の低下は免れなかったようで、この数ヶ月の間、遠矢君はリハビリに励んでいた。
 
「そっちは? お姉さん、その後どう?」
「もう元気が有り余ってるって感じで、うるさくて仕方がないよ」

 型が一致したことが幸いしたのか、拒絶反応もほとんどなく、その後の生活は一変した。今まで不自由に暮らしていた反動なのか、お姉ちゃんはいろんなところに行きたがった。それに付き合わされたせいで、遠矢君と遊びに行く約束もなかなか果たせなかった。そう文句を言った私に、遠矢君はおかしそうに笑った。

「ふーん? でも、困ってるって感じでもないね」
「まあ、ね。こんなふうにお姉ちゃんと出かけたり家族みんなでわいわいするってことなかったから、今は凄く家族してるなーって思う」
「そっか。二葉が幸せそうでよかった」

 伸びを一つすると、遠矢君は私に手を差し出した。

「それじゃあ行こうか」
「うん」

 その手を取ると、私たちは手を繋いで歩き出す。
 悲しい思い出は全て鉄橋に置いて、前を向いて歩いて行こう。
 繋いだ手の中には、まだ見ぬ未来が待っているのだから。