「そうですか。では、弊社も図書館に置くのにふさわしい品を用意して、お待ちするようにいたしましょう」

「アハハ。えっと……機会がありましたら、よろしくお願いします」

 スタッフさんが僕の方に微笑みかけてきたので、慌てて愛想笑いでお辞儀を返した。さすがは商売人だ。物腰柔らかに見えても、商魂たくましいというか、抜け目ない。

 ただ、よしんば司書になれたとしても、果たして図書館がこんな高い本を買う機会はあるのだろうか。少なくとも、市立図書館とかでは無理だろうな。こんな高い本を一冊買うくらいなら、そのお金で別の本をたくさん買うだろうし。

 けど、大学図書館とかなら、購入する機会があるのかも……。大学の図書館って、無茶苦茶古い本を所蔵して、機会があると一般公開もしているみたいだし。
 もっとも、そんな貴重な本の購入に立ち合おうとしたら、それなりに偉くなっていないと無理そうだけど……。

「さて、三大美書については以上になりますが、よろしければ他の展示品もご案内しましょうか?」

「はい! ぜひ!」

 奈津美先輩が、飛び跳ねるような勢いでスタッフさんの手を握った。目なんかもう、太陽のように燦々と輝いている。
 その光景を見せられた僕としては、やっぱり少しおもしろくない。なぜか知らないけど、胃の底辺りがムカムカする。

 もっとも、奈津美先輩のこの勢いには、スタッフさんも若干困り顔だった。奈津美先輩がぐいぐいと押しているせいで、体も少しのけぞっている。本人としても、まさかここまで食いつかれるとは思っていなかったのだろう。この人の暴走特急ぶりを、甘く見てはいけないのだ。