「もう! 私の英単テストの結果はどうでもいいの! それよりも私の話!」

「はいはい、そうでしたね。どうぞ、話を続けてください」

 憐みによって優しい気持ちになれた僕は、穏やかな口調で先を促す。
 奈津美先輩は「まったく悠里君は……」と文句を言いつつも、話の方向を修正した。

「私が成し遂げたのは、他でもない。九條(くじょう)先生との粘り強い交渉の結果、私は遂に文集作成の自由を勝ち取ったのよ!」

 奈津美先輩が自信満々といった様子で、ついに今日の話とやらの核心を明かした。九條先生というのは、書籍部の顧問を務めている古典の先生だ。どうやら奈津美先輩がやってきたこととは、顧問との交渉のことだったらしい。
 ただ、その結果として勝ち取ってきたものが〝文集作成の自由〟とは、一体どういうことだろうか?

「文集作成の自由って、文集なら毎年作っているじゃないですか。というか、これがなくなったら、書籍部にまともな活動なんてないですよ」

「まともな活動がないとは失礼ね。悠里君は、書籍部への愛情が足りていないと思うわ」

「愛情って……。先輩によって拉致同然で入部させられた部活に、そんなもの感じているわけないじゃないですか」

「あ~、ひどい! 悠里君、またそういうこと言う。あれは拉致じゃないわ。合意の上だったもん!」

 両手を腰に当てて頬を膨らませる奈津美先輩に向かって、大きくため息をつく。
 そう。僕は好き好んでこんな存在意義のわからない部活に入ったわけではない。この人に、無理矢理入部させられたのだ。
 僕の頭の中に、高校に入学した日の出来事が鮮明に蘇る。
 あれは、奈津美先輩と七年ぶり(・・・・)に再会した直後のことだった。