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 沖田総司のような人間とお化け屋敷に入るのはよくない。最悪だ。ひどい目に遭った。

 水泳部のお化け屋敷はクォリティの高さで有名だ。売り上げ目標もキッチリ定められており、それを下回った場合、十一月の鴨川に飛び込むことになっているらしい。
 わたしは最初から行きたくなかった。

「イヤだ。絶対イヤだ!」

 ちゃんと主張したのに、言えば言うほど沖田はおもしろがった。水泳部の屈強な男どもも、嬉しそうに「うふふふ」と笑いながら取り囲んできた。例によって沖田に手首をつかまれて、わたしはお化け屋敷に連行された。
 おのずと見える類いの本物と、見世物のお化けは全然違う。

「何でいちいちおどかしに来るの!」
「それが役目だからだろう」
「何できみはそう平然としてるの!」
「気配でわかっちまうからなあ。でも、よくできてるよね、ここのお化け。ほら、そこ」

 無理やり方向転換させられて、直後。目の前にべろーんと垂れ下がってくる、顔色悪すぎなろくろ首。

「…………」
 わたし、フリーズ。

「あははははは、その顔! 巡野さんに写真機を借りてくればよかった」
 もうやだ。本当にイヤだ。さっさと外に出たい。

 今ならまだ、来た道を引き返すほうが早い。そう思って振り返ると、しずしずと閉まる襖《ふすま》によって退路を断たれた。呆然。
 次の瞬間、パッと、ライトが襖を照らした。目だらけだった。ライトを反射して光る目が、びっしりと襖を埋め尽くしている。

「…………ッ!」
 わたしは沖田の腕を引っ張って振り向かせた。
「どうかした?」
 沖田は笑い交じりの顔だ。

 わたしは、目だらけの襖を指差した。いや、目だらけだったはずなのに、ライトがすでに消えている。目がどこにも見当たらない。
「ええぇぇぇ……」
「何を見たのさ? ほら、歩いて。置いてくよ?」
「やだ!」

 ついたてで仕切られて迷路になった講義室を、沖田に引っ張り回される。沖田はまったく驚かないし怖がらない。わざわざわたしをお化けと対面させて、自分はけらけら笑っている。

 出口の光が見えたときには、わたしはぐったり疲れ果てていた。とどめのおまけに、首筋にむにょっと湿った冷たいものが触れたときは、声もなく崩れ落ちてしまった。

 きょとんとする沖田がわたしを振り返る。
「ついに腰が抜けたの?」

 その背後に、すーっと、スマホサイズの板状のものが下りてきた。薄明かりに照らされて、わたしはそれの正体を知る。こんにゃくだ。糸で吊るされている。
 沖田はそちらを見もしなかった。ただ、正確な位置に手をかざして、首筋に貼り付こうとしたこんにゃくを防いだ。

 そして声を上げた。
「うわっ。何、今の?」

 手ざわりが予想外だったらしい。沖田が振り向いたときには、こんにゃくはもう天井近くまで退避していた。沖田はきょろきょろして、首をかしげる。
 ちょっと笑ってしまった。沖田は、むっと怒った顔をしてみせ、結局すぐに笑った。