「いいんだと思います。神様なんて存在はいると思えばいるし、いないと思えばいない。そんなものですよ」

 無理に信じる必要もないし、逆に否定する必要もない。雨がそこにあるのが真実なように、見て触れて感じれていると思う時にだけ、それを信じればいい。
 だから信じたくなくなったなら、それは信じなくてもいいじゃないか。
 だってこの世は、理不尽なことだらけなのだから。信じる者だけが救われる世界なんかじゃないって、僕たちはとっくに気がついている。
 それでも神様を信じたければ信じればいい。だけど、信じて裏切られることだってある。それがこの世というものなのだと僕は27年生きて来て、そう思うんだ。僕よりももっと長い時間を生きて来たキヨさんは、もっとたくさんそんな経験をして、感じて来ているはずだ。

「僕は見えるものしか信じられません。だから天国や地獄なんてものがあるのかどうかも僕には判断できないです。死んだ時に僕は初めて知ることになると思います。そんな世界があるのかどうか。そして、神様というのが存在するのかどうかも」

 あの日、左右は僕に言った。

『キヨの依頼を運んでくれて、ありがとうな』

 憎まれ口ばかりを言う左右が、僕にお礼を言ったのだ。それは左右がすでにこのことを知っていたからなのだと思えば、つじつまが合う。
 キヨさんは僕に依頼の手紙を託した。その理由は腰の曲がったキヨさんにとってこの急斜面の階段がキツイからではなく、もしかしたら神社に顔を出したくなかっただけなのかもしれない。
 神様がいるとされるこの場所に。神様を信じられなくなったキヨさんは、もう足を踏み入れたくないと思っていたからなのかもしれない。

「お兄さんの名前、そういえば聞きそびれていたね」
「あっ、そうでした。僕は佐藤雅人と言います」

 また僕は目上の人に挨拶を怠ってしまっていた。田舎での休暇により僕は社会人としての常識をすっかり忘れてしまっているのかもしれない。
 まだ僕の休暇は始まったばかりだと言うのに、これでは社会復帰が難しくなるぞ! と自分を律する。そんな僕に向かってキヨさんは朗らかな笑みでこう言った。

「佐藤さん。ありがとうね」
「いえ、僕はなにも。手紙のことだって僕はただ神社に顔を出すついでだったのですから」
「それでもよ。ありがとうね」

 ……なんだろう。キヨさんが笑ってくれているその様子に、僕はなんだか胸が踊るような、満足したような、なんとも言えない嬉しい気持ちになった。
 人にお礼を言われて喜んでいるんじゃない。お礼を言われるようなことをしたって思って、勝手に満足しているわけでもない。
 ただ、僕は……。