状況がつかめないみーこさんの父親はキョトンとした様子で僕とみーこさんを交互に見ている。

「……なんだか、楽しそうでいいですなぁ」

 この悪魔を目の前にしながらこののほほんとしたコメントを聞いていると、僕は思わず毒づきそうになり、そんな自分を自制する。
 こんな頭のネジが一本飛んでそうな感じの方でも、彼は宮司で麗しいみーこさんのお父上なのだから、と。

「お前……全然自制できてないぞ」

 透明人間の姿は見えなければ、声も聞こえはしない。僕は耳の穴をほじるような仕草をした後、再びみーこさんの父親と向き合った。

「失礼いたしました。社会人として恥ずかしながら、どうやら僕は集中力に欠けているようです。ここからは邪念を捨ててお話を伺いたいところですので、どうか続きをお願いいたします」
「そんなに畏まらないでください。まぁ端的に言ってしまえば、この神社はその古事記の由来から困っている人がいれば手を差し伸べてあげるというのが信念と言いますか……それもあって、あやかし新聞というものを作ったのですよ」
「なるほど。それはなんとも立派なお考えですね」

 それであの子供騙しな学級新聞なのか。なるほど。

「お前、性格に難ありすぎだぞ。腹の中の声と表の言葉に差があることをいい加減自覚しろ」

 聞こえない声を阻むように、僕はさらに詰め寄った。

「あの神棚にお供えされている手紙……僕が代理で運んだあの紙には何が書かれているのでしょうね?」

 ここまで運んできたのだ。少しくらいあのおばあさんの悩み事とやらを知ってもいいのでは? という考えがが泡のように膨れだしていた。
 どうせ新聞で答えを書き出すのであれば、ここで僕が内容を聞いても問題はないだろう。そう思ったところ、みーこさんの父親も同じことを思ってくださったのか、一旦は神棚に置いたあの手紙を取りに行ってくれた。

「佐藤さんが運んでくださったのも何かの縁でしょう。一緒に確認してみましょうか」

 そう言ってみーこさんの父親はメモ紙の切れ端を細く、長く折られているそれをゆっくりと開いた。
 カサカサカサ……と紙が擦れる音を奏でながら露わになったその中身。みーこさんの父親が誰よりも先に黙読した後に「ふーむ」と息を吐きながら手紙を机の上に置いた。
 僕と麗しのみーこさん、そして空気の存在がその中身を見ようと身を乗り出した。