先月十一月は調理実習の成果発表会なんかもあって、学校もいそがしかった。

 家族を招待しておもてなしをするんだけど、うちの親はとても喜んでくれたし、ミホの両親も茨城から駆けつけていた。

 あたしが前菜を運んだら、胸の名札を見たミホのお母さんに声をかけられた。

『あなたが西谷さん?』

『はい』

『いつもうちの娘がお世話になってます』

『いえ、こちらこそ』

『入学したときは心配だったんだけど、いい友達ができて毎日学校が楽しいってメールで知らせてくれててね。ありがとうね。これからもよろしくね』

 本人以外の人からあらためて言われるとめちゃくちゃ照れくさい。

 だいたい、世話になってるのはあたしの方だし。

 おまけにミホは不機嫌になるし。

 調理室に戻ったら、いきなり問い詰められてしまった。

『うちの親、何か言ってたでしょ』

『よろしくねとか、そんな感じ』

『ほんとに?』

 うん、とうなずくあたしをどうも疑っているらしい。

『絶対、他にも何か言ったでしょ』

『たとえば?』

『……って、言うわけないし。そんな罠に引っかかるわけないじゃん』

『逆に気になるけど』

 ミホににらまれた。

 ちょっとからみすぎたか。

 ミホは中学の時にいろいろあったから、お母さんたちも心配していたんだろうな。

 晴れの姿を見せて安心させてあげられるのがうれしいんだろう。

 メインを運んだミホが戻ってきた。

 その顔はなんだかとてもほころんでいた。

『なんか言ってた?』

 今度はあたしが聞いてみた。

『べつに、何も』と言葉は素っ気なくても、表情は隠せない。

 甘えてもいいんだよ。

 あたしみたいに。

『え、何?』と、ミホが素早く表情を切り替える。

『べつに、こっちもなんでもないよ』

 またにらまれたけど、そういうミホの姿を見ることができたのは収穫だった。

 クールなだけかと思ってたけど、やっぱり人にはそれぞれ見せない部分もあるんだね。

 悩みとか、分からないこととか、みんなそれぞれいろいろあるんだ。

 あたしだけじゃないと分かったところで、あたしの悩みが解決するわけじゃないけど、悩むことは悪いことではないんだ。

 そう思うことができれば、少しは楽になれる。

 日常の流れに身を任せてしまえば、いろんなことが楽になるし、楽しいことがいっぱいある。

 ケラケラ笑って過ごせる日々が過ぎていく。

 べつに笑うのは悪いことではない。

 本当は康輔と一緒に笑いたい。

 それはそうだけど、それが一番だけど、それができないからって笑っちゃいけないわけじゃない。

 だからこれでいいんじゃないかな。

 言い訳ばかりの毎日だけど、それでもあたしは一歩一歩前へ進んでいるつもりだった。