でも、日常のいろんな出来事に流されていれば、チクリとした痛みは自然と頭の片隅に小さく消えていく。

 今、康輔はあたしの日常の中にいないのだから。

 そのことに気づくとまたハッとしてしまう。

 康輔のことを忘れようとすればするほどかえって思い出してしまう。

 そのたびに胸が押しつぶされそうになる。

 だけどまた次の瞬間、岸辺に打ち寄せる波が貝殻をさらっていくように、日常のささいな出来事が康輔のかけらを押し流してあたしは現実に引き戻される。

 少しずつ記憶を薄めていって、慣れていく。

 それはむしろ健全なことなのかもな、なんて思う。

 おそらくそれは人が人として、自分を守るためにある本能みたいなものなんだろう。

 いつまでも悲しんでいたら、心も体も病んでしまう。

 もちろん康輔のことを忘れたわけじゃないし、忘れた方がいいと思っているわけじゃない。

 康輔のことを思い出す回数が減ってきたなと気づくたびに後ろめたさを感じることもある。

 だけど、目の前の現実を受け入れていかないと生きていくことができなくなる。

 だから仕方がないんだよ。

 さびしいけど、それもまた受け入れていかなければならないんだ。

 あたしは康輔のことを忘れないために、生きていく。

 だけど、生きていくためには、康輔のことを少しずつ忘れていかなければならないんだ。

 どこかねじれたような理屈だけど、あたしの中でその間のバランスをうまくとっていかなくちゃいけないんだ。

 そうやって何度自分に言い聞かせたかわからない。

 けど、その自問自答の回数自体少しずつ減ってきているのも確かだった。

『最近、表情が明るくなったよね』

 ミホがたまにそう言ってくれる。

 もうミホはあたしが康輔のことで悩んでいることすら忘れてしまっている。
 事故のショックから立ち直ろうとしていると思っているのだ。