俵型の最中が三種類並んでいる。

「これがシンプルな粒あん。こっちは栗入り。これはね、抹茶味」

「栗入りがいいな」

 かしこまりました、とあたしに一つくれて、ミホは抹茶味を取った。

 一口かじると粒あんの中から大きな栗が出てきた。

 思っていたよりも甘さが主張していて、お茶が欲しくなる。

「味が濃いね」

「昔はこういう方が喜ばれてたみたいよ。でも、最近はお上品な味にみんな慣れちゃってるよね」

 病院の食事に舌が慣れすぎているのもあるのかもしれない。

 久しぶりに味わう甘さが中毒性を発揮し始めて、あっというまに一つ食べてしまった。

「ほれ、太れ太れ」とミホが箱を突き出してくる。

 あたしは遠慮なく粒あん最中をもらった。

 こちらは栗がない分、あんこがぎっしりで甘みもさらにパンチが効いている。

 少し口の中をさっぱりさせたいなと思っていたら、ミホがベッドサイドの棚にある水のペットボトルのふたを開けてくれた。

 あいかわらず超能力みたいな察し方だ。

「ありがとう」

 水を一口ふくむと口の中がすっきりした。

 そうなると不思議にもう一つ食べたくなる。

「おいしいね、この最中。せっかくだから抹茶味ももらおうかな」

「そんなに食べて大丈夫?」

「うん。べつに何食べてもいいって。ここのご飯けっこうおいしいから、少しくらいお菓子食べても、夕飯もちゃんと入るよ」

 それは良かったとうなずきながらミホが最中を渡してくれた。

「でもさ、少しって量じゃないよね。本当に大丈夫?」

「いいじゃん。せっかく持ってきてくれたんだから」

 入院していると、あまりすることがなくて、食欲があるのはいいことなんだなって思う。

 食べられるというのは、それだけでうれしいことなんだな。

 調理科で学んでいるけど、今まではそんなことを考えたこともなかった。

 調理師といっても、レストランで働く人ばかりではない。

 学校給食の事業所や空港で機内食をつくる工場とか、パン祭で有名な全国チェーンの工場で働く人もいる。

 うちの高校の調理科の卒業生も老人ホームや病院の食事を提供する会社に就職する先輩が多い。

 学校の授業でも、病人向けレシピの実習をやったことがある。

 アレルギー対策や塩分量など、指定された材料しか使ってはいけないし、調理法も決められている場合はますますメニューの幅が狭くなってしまう。

 そういう制約の中でもなるべくおいしいものを提供できるように工夫していくことが大事なんだなと、しみじみ思った。

 自分が実際にこういう立場になってみると、そういう知識がどんな風に活かされているのかとても参考になる。