パパが忙しいときは、ママがゆうちゃんを動物園や水族館に連れて行った。どうぶつが出てくる絵本が好きだったゆうちゃんは、絵本のキャラクターと照らし合わせて楽しんだようだった。ママに買ってもらったユキヒョウのメモ帳やレッサーパンダのハンドタオルを、ゆうちゃんは嬉しそうに学校に持っていった。
やがて小学校高学年になると、ゆうちゃんは寂しさで泣くことはなくなった。放課後はよくともだちと遊ぶようになり、真っ赤な自転車に乗って児童館や公園、ともだちの家や駄菓子屋へ楽しそうに遊びに行った。
「日が暮れるまでに帰ってきなさい」とママはよくゆうちゃんに言い聞かせていた。何時までに、と言わないところがゆうちゃんには少し難しかったようで、季節によって違う日の入り時によく惑わされていた。夏はたくさん遊べるのに冬はちょっとしか遊べない、とぼくにぶーぶー文句を言うことも多かった。すっかり遊びに夢中になって、日が暮れてから帰ってきた時はママに怒られて不貞腐れていた。
ゆうちゃんは背も伸びて、小数の掛け算も分数の約分も出来るようになったけど、ぼくと一緒に寝るのは変わらなかった。ゆうちゃんの寝相は中々改善されなくて、やっぱりぼくはベッドから落ちてしまうこともあるけれど、ゆうちゃんがむにゃむにゃと何か言いながらきもちよさそうに眠るのを見ると、ぼくはとっても楽しかった。たまに寝言を言うゆうちゃんだけど、今までで一番面白かった寝言は「ジョニー!それはアルトリコーダーだよ!」だった。ぼくはしばらく考えたが、どんな夢なのか見当もつかなくてそれがまたおかしかった。
ゆうちゃんが寝言も言わず、比較的おとなしく眠る夜は、昔ゆうちゃんに読み聞かせてもらった絵本のことを思いだした。おひめさまが出てくるお話、どうぶつがいっぱい出てくるお話、家族のあったかいお話。イヌが悪者で出てくるお話には、ゆうちゃんは本気で怒っていた。物語のラストでイヌが改心すると、「反省するなら許してあげてもいいよ」と語りかけていたのがかわいかった。
今でもゆうちゃんはずっとかわいい。ゆうちゃんは成長しているけれど、ゆうちゃんを作っている奥深いところは何も変わらない。奥深いところは、こころなのかもしれない。あたまかもしれない。ぼくには難しいことはよく分からないけれど、ゆうちゃんはいつだってぼくの一番大切な女の子で、だいすきな女の子であるのはなんにも変わりやしないのだ。