つまり最初の一人の混乱が、集団全体にまで及んでしまうのだ。
『だから飛燕さんは自分が最初に悲鳴を上げることで、出だしの一歩を挫いてメンバー全体の混乱を目論んだ。懐中電灯を落としたのも、わざとじゃないのかな。じっくりと照らせばシールに気付かれるし、いきなり光源がなくなれば余計に恐怖心が助長されるから』
 あの時はカズラが現場を離れた場所から俯瞰するオブザーバーとして存在したので、少なくとも俺だけは冷静さを取り戻すことができた。
 しかしそうでなかったら飛燕の悲鳴を皮切りに、俺たちは雪崩のような混乱に飲み込まれて推理どころではなくなっていただろう。
『さっきの教室でもそうだったけど、まず逃げようって提案したのも飛燕さんだよね?』
「つまり長く居座られるとトリックがバレるから、か」
 言われてみれば怪談に対しての第一声が飛燕なら、退却を最初に提案したのも飛燕だ。
「でも、それをどうやって証明するんだ?」
 カズラの推理には信じられるだけの根拠はあったが、あくまで推測の域を脱しない。
 飛燕が今回の怪談を煽動している犯人と認めさせるには、決定的な証拠が足りなかった。
『だから、次の怪談が勝負だよ。現行犯で摘発して、言い逃れできないようにするの』
「犯人に目星がついてる以上、それを狙うしかないな」
 犯人と認めさせうる証拠がないならば、それを作り上げるしかない。
 即ち犯行の現場を押さえてしまうのだ。そうすれば、言い逃れもできない。
『そのためには警戒を緩めないといけないね。多分、カズラがいる限り、飛燕さんは慎重になってくると思うから』
 確かにここまでの怪談を解き明かしてきたカズラがいれば、確かに飛燕も慎重にならざるを得ないだろう。そうなってくれば、尻尾を掴みたい俺たちには不都合だ。
『だから、通話を切ってるフリをして。理由は電波障害とか、適当なのでいいから』
「気付かれないように通話は維持して、そっちの声が聞こえるようにすればいいんだな」
『ヘッドセットはつけておいてね。そうすれば、こっちの声は聞こえるから』
「電波の調子が良くなったら、いつでも通話を再開できるように。とでも言っておくか」
 カズラの提案は通話をしていないと見せかけて、実際には通話を継続して飛燕を油断させるといったものだった。